レオピン

ナバロンの要塞のレオピンのレビュー・感想・評価

ナバロンの要塞(1961年製作の映画)
4.1
マクリーン小説の最初の映画化作品。戦争映画というよりも序盤は冒険活劇、中盤でじっくりドラマを見せて終盤は潜入破壊工作ケイパーものの面白さ、と一粒で三度おいしい。

英軍の特殊任務につく男たち六名に二人のレジスタンスの女が加わる。しっかりとしたキャラクターがいてドラマもあって、まさかの伏線回収にびっくり。ロマンス要素も若干アリ。
どちらかというと戦争そのものよりも人間の心に焦点を当てたカール・フォアマンの脚本。

ベースにあったのはキース大尉(ペック)とスタブロ大佐(クイン)の因縁。過去に敵兵を信じたことからスタブロの家族は皆殺しにされた。スタブロはその恨みをキースへ向けた。戦争が終わってから決着をつけようと言って。作戦中キースは決断を迫られる度に後ろからさすこのスタブロの視線を感じていたはず。それはまた自分への問いでもあった。

リーダーは当初フランクリン少佐だったが足に負傷を負い歩けなくなったことからキースが指揮をとる。爆薬担当のミラー伍長はフランクリンと幾多の戦場を共にし死線をかいくぐった仲だった。

ミラーはそのフランクリンをキースがある策を持って捨て駒同然の扱いをしたことに激しく怒る。あなたは人間として一番やってはいけないことを行った。そして翌朝にキースはある決断を迫られる。キースの決断をスタブロはどう見守るのか ミラーはどう受け取るか 三者三様の心理模様。

やりたいかどうか 好き嫌い等は関係がない。誰かがやらねばならない 決めなければならない。企業人や組織人、政治家などのリーダーシップ論としても見ることができる。

キースの使命は重大だ。島に取り残された将兵2千だけでなく島に近づいている艦隊の全滅もありえる。もしかしたら1万人規模の命が彼の決断いかんにかかっている。常軌を逸した状況でそれでも人間の心をなくさずに決断を下すことができるのか。

ミラーの言い分には甘えがある。自らは手を汚さずにいながら相手には無理なことを求める。戦場(という現実)において100%の潔癖さ高貴さはない。厭世的教条的な傾向を持つ人間が陥りやすい罠だ。みなグレーゾーンでやっている。お互い様なのだ。ナチだっていい奴もいれば悪い奴もいる。

Son, your bystanding days are over! You're in it now up to your neck!
君が傍観者でいられる時は終わった 貴様はもう 首までどっぷりその中にいるんだ!


ミラーにデヴィット・ニーブン 素晴らしい能力を持ちながら出世を拒み万年伍長 初めから一言多い 仇名は教授
フランクリン少佐にアンソニー・クエイル 『大脱走』でいうドナルド・プレザンスのような

ブラウン一等兵にスタンリー・ベイカー バルセロナのブッチャーの異名 もう殺しに疲れた
スピロ・パパデモス一等兵のジェームズ・ダーレンは当時のアイドル歌手 姉との意外な再会に抱き合う姿に一同和む

マリア・パパデモスにイレーネ・パパス ギリシャ美人
アンナにジア・スカラ 三白眼美人


何よりも面白いのは敵がミサイル基地でも戦艦でもないただの単純極まる二門の巨砲だという所。この要塞のビジュアルを2時間経ってからようやく見せる。砲の異様さは村人が音に怖れをなしてみんな近くに住まなくなったという台詞で伝わる。一体どんなんだろうと・・・

でデカい リアル兵器の存在感 鉄の重厚長大さ。ドイツ人のギリシャ文明への憧れが作らせたのか。本当は大理石風でいきたかったのかも。
これを粉砕する。既に味方の連合軍艦隊の駆逐艦は迫っている。策に気づいたドイツ軍も慌ただしく攻撃態勢を整える。

ここのドイツ軍の一糸乱れぬチームワークも素晴らしい。指揮命令セリフの気持ちよさ。砲弾を装填するだけで何十人もの人間が一斉に動く。何もかも桁違いでド迫力の砲門だ。
砲兵たちは白い防護服のようなものを頭からすっぽりかぶる。控室みたいなところでのんびり会話をしていた彼らが実は終盤の主役だった。防音の頭巾の集団がみんな一緒に耳をふさぐ姿は妙にかわいかった。

この要塞内部はもうこれぞ ”ジオン驚異のメカニズム” と叫ばんばかりのナチの異様な徹底ぶりこだわりが見えて唖然。これ絶対ガンダムのクリエイター陣にも影響与えていると思う。ルナツーとかソロモン、ア・バオア・クーの大きなイメージ源になっているのでは。

作戦に成功する見込みは万に一つもないだろうと送り出した立案者のジェンセン准将が言っていた。この力を平和に向けることができればいいんだがなと。
このドイツ人の生真面目さをなんとか戦争にだけは向けさせないようにせねばというのが戦後の欧州の知恵か。

とはいえラストは、すべて仕掛けが終わった後で洋上から見守るという、花火大会で一番いい席とって今か今かと打ちあがるのを待っているような。ビール片手の屋形船状態。俺の仕込んだ花火ちゃんと火つくかなぁとドキドキ ワクワク

最後は中二的ジャンプ的な面白さがつまった戦争映画でした。  


⇒ギリシャ軍全面協力。オープニングでも感謝が捧げられている

⇒脚本・製作:カール・フォアマン 『戦場にかける橋』でアカデミー脚色賞

⇒打ち上げ花火映画ベスト級
レオピン

レオピン