レオピン

モガディシュ 脱出までの14日間のレオピンのレビュー・感想・評価

4.1
われわれの目標は生存だ

ヒョエエー まさか北の保衛部の男にここまで心揺さぶられるとはなぁ。もう『鬼滅の刃』の煉獄さんばり。まさに呉越同舟映画。それにしても大使館・在外公館というのはドラマになる場所だわ。 

この時代、80年代はソウル五輪を目前に控え北の対南工作が激化した時代。ラングーン事件、蜂谷真由美こと金賢姫による大韓航空機爆破事件。お互い親の仇よりも憎い相手。そんな中両国とも国際社会へ向けたPR合戦が熾烈になっていった。

二国の体制の異様さが伝わるのは、北の外交官は必ず家族を一人国に残すという台詞や、南は安企部が勝手に北の大使館職員を転向者へ仕向けようとするところ。発想がもう戦国時代か。
映画のなかでは韓国の大使館側は少人数だが、北のほうは子どももたくさんいて大所帯として出てくる。この人たちも丁寧に描かれ十分感情移入できるように作られていた。

終盤、「いらない本はありますか」からの流れ。タイムリミットを設けての賭け。イタリア大使からは16時までには必ず来てくれと言われていた。公邸を出たのは15時半、このゴールへ向かった4台の強行突破は映画の原点をも感じさせ、追いかけっこムービーとしても最高得点!


北の大使にホ・ジュノ(許峻豪) まったく表情を変えない人物
北の参事官にク・ギョファン(具教煥) ナイフ使い
敬虔なクリスチャンの大使夫人にキム・ソジン
瓶底メガネの通訳女性にパク・キョンヘ
安企部役人にユン・ギョンホ


苦難の末ゴールへ辿り着く。ここで終わってもよかったが、気まずさに包まれたラストが待っていた。死地を抜け出た喜び 互いへの信義が芽生えたのもつかの間、空港で出迎えの役人を見た途端にそれははかなくも消し飛んだ。

親たちは子供の目を両手で覆い何も見させないようにする。二人の大使は思いを胸におさめる。「なんで?」と問いを抱き続けられるのは子どもだけだ。その子もきっと大きくなれば同じように余計なものを見ないようにして生きて行くことしか選べないだろう。

この地上には、何千年も同じ場所で暮らし同じ言葉を話し同じものを食べて暮らしてきたのに、突如大国の都合で引き裂かれた人たちが無数にいる

いやナイーブすぎるか。でも、もう一度あの人の顔を見ておきたい、とあの慌ただしい別れの中互いを探し求める視線がどうしても引っかかる。職場で大した挨拶もできずに別れてしまった人とか、大した違いもないのに対立しているかのように思い込まされたチーム員同士とか もっと言葉を交わしておけばよかったなとかいう思いがこみ上げる。。。

長い間続くソマリア内戦。彼らの争いの背景には英国やイタリアの植民地主義がある。一夜明けた大使館から抜け出して車から見る死屍累々の光景に自分たちの姿を重ね合わせて描かれていた。内戦も分断もある意味彼らの方が先輩だ。
『JSA』を観て以来、やるせない現実の前にただただ正座するしかないラストだった。
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