マインド亀

アレックスのマインド亀のレビュー・感想・評価

アレックス(2002年製作の映画)
4.0
人生は不可逆。ささやかな幸せを見逃すな。

●冒頭から映画を逆回転していく構造は、クリストファー・ノーランの『メメント』と同じですが、『メメント』は誰が何人かを追うミステリー的な筋書きを追う装置として逆回転を使っているのに対し、本作は結末を先に示しておいて、シンプルな筋書きの味わいを変えてしまう、いわば「味変」的な装置として逆回転が使われています。最初の不安定なカメラワークで誰と誰が何をやってるかわからない画面の中で、混沌とした状況を我々が推察し、取り返しがつかない事件が中盤に起こってしまったことを知ってしまってから、その「カノンイベント」(byスパイダーバース)が迫ってくる恐怖を味わうという、スゴく怖い怖い映画でした。

●さらにその事件が起こるより以前にまでストーリーが遡ると、冒頭では登場しなかったアレックスの幸せだったときを、まるで冒頭とは全く違う映画のようなトーンで映し出します。そしてその味わいは、めちゃくちゃさわやか。中盤の事件をつい忘れるくらい美しいラストなのですが、映画を見終えてからその事件のことを思い出すと、最悪です。いやー久々に嫌ーな映画見たわ〜と思いながらも、やっぱりノエは露悪だけの監督じゃないと再確認。ささやかな幸せを見逃すな、時間は不可逆なのだから、そう必死に教えてくれてるような気がします。
そう、本作の原題は『Irréversible』。「ひっくり返せない、不可逆、取り返しがつかない」なのです。

●そして驚きなのは本作がもう二十年以上前の映画だということです。私も『VOLTEX』の予習としてうっかり上映時の年代を読まずに観てしまったのですが、最近の映画だと思ってしまいました。常に新しい映画表現を追い求めているノエだからこそ、そのビジュアル面は今観ても鮮烈でフレッシュ。『CLIMAX』と並べて観ても色褪せない作品だと思いました。冒頭の消化器での顔面破壊も非常に怖いし痛いし、あんなの今でも観られる映画ないですよね。
20年後の2021年には最初から時間軸を時系列通りに編集した『ストレートカット』が作られたのですが、こちらを観るのは、もう少し本作の記憶が薄れてからにしようかな、と思います。

●本作はモニカ・ベルッチの最悪なレイプシーンがあります。これはネタバレでもなんでもなく、冒頭でわかることですし、知っておいてから観たほうがいい作品です。観たくない人は絶対に観ないほうがいいです。
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