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マラソンのtakのレビュー・感想・評価

マラソン(2005年製作の映画)
4.0
 韓国で大ヒットを記録した感動作。20歳なのだが、自閉症で5歳児並の知能しかない主人公。母親は彼に付きっきりで世話を焼く。走ることだって、元はと言えば”好きなことを見つけられれば”との思いから母親がさせていたことだった。しかし彼は走ることが大好きだった。意思表示の方法を知らないだけで、それ故に周囲の人々は気づかない。そして彼はフルマラソンに挑む。

 韓国映画の秀作を観る度に、”どうして脚本がこんなに面白いのだろう”と僕は思う。この映画もそうだ。小さなディティールまでもが必ず後につながっている、この対比の見事さ。主人公が走りながらさわっていたススキの穂は、クライマックスでは沿道で声援を送る人々の手に変わる。子供の頃チョコパイに釣られて登った山道、でも今度はそのチョコパイを手放して一人で走り続ける・・・。さらに風を感じながら走る主人公がシマウマと共に走るイメージショットは見事としか言いようがない。しかもそれらが一言の台詞もなく映像だけでスマートに描かれている。それはSFXと説明くさい台詞に支えられた近頃のメジャー作品が情けないと思えるくらいに。

 一方で自閉症を抱える家庭の厳しさに迫る社会性を兼ね備えているのもこの映画のすごさ。実際の苦労や家庭崩壊の様子はこんなものじゃないよ、という声もあると思う。でもこうした映画を観ることでそのほんの少しでも理解することにつながるならば、社会全体の無理解に一石を投ずることになるならばよいのではなかろうか。何よりもこの映画で一番の感動をくれるのは、主人公の物事に対する純粋さ。それによって周囲の人々が人間性を取り戻していく様が素晴らしい。走った後でドキドキする胸。一緒に走った教師の胸もドキドキしている。それらをスクリーンで見つめている僕らの胸もドキドキしているんだ。みんな同じなんだ。
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