genarowlands

この広い空のどこかにのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

この広い空のどこかに(1954年製作の映画)
4.2
あの厳しい人間の心理を描く小林正樹監督がこんなに優しく温かい家族劇を作っているとは、と思ったら、師事していた木下恵介監督の元から監督となったばかりの頃の作品で、木下恵介監督の妹(楠田芳子)がオリジナル脚本、松山善三が脚本、劇伴は弟(木下忠司)で、木下ファミリーとの制作でした。

家族の細やかな機微を描いた良作です。商売をしていた木下家のことのように感じました。

1954年、なんとか日常生活を取り戻した酒屋の一家。ただひとり姉(高峰秀子)だけが戦争の影を引きずっていた。空襲で脚を負傷し、恋人にふられ、家族の重荷となっていると世間に背を向けている。新婚の長男(佐田啓二)の嫁(久我美子)を素直に受け入れられない。

家族の小さな会話が、本当に家族らしい。会話の積み重ねで、それぞれがそれぞれを思っている本音が、少しずつわかってくる。家族ならではの遠慮のない言葉や、言わずにわかってもらいたい甘えや、それを補う家族たち。

一家の主の佐田啓二は、父亡き後の長男としてよく働くが、新婚の妻の思いがよく理解できない。早く一家になじめという。やや独裁的な長男。

農家出身の妻が主役なんだろうか。現代っ子のようでケロっとしていて、店の商いもまだまだ板につかず、気働きがなく何かと失敗してしまう。屈託のない素直さが愛される。

何より学生の弟(石濱朗)の明るさと気遣いがいい。末っ子は早く大人になり、うまく立ち回り、人間関係を良い方へサポートする。

この家族の中でいちばん家族を思ってやきもきしているのが母(浦辺粂子)である。嫁には遠慮するし、娘の痛みはよくわかる。自分を抑え、息子を立てる。

どこの家庭にでもある、ちょっとしたもやもやが大きくなったり、きっかけがあれば瞬間で消えてしまう。家族ならではのもやもや。

名シーンは、屋根の物干し台で佐竹啓二がボールを投げるシーン。多幸感でいっぱいになります。

なんでこんなに沁みるんだろう。
木下ファミリーの温かさがとても心地よいんです。

また、浦辺粂子が母方の祖母にそっくりで、話し方とか、言い回しとか。調べたら、祖母と同じく静岡の出身。方言は使っていなかったけど、イントネーションや発声が近い。木下家は静岡の出身です。

それで気になって、じゃあ久我美子は東京っぽい強い発声だと思ったら、やはりそう。佐田啓二は柔らかい発声だから京都。こんなに声の出し方が出身地と関係しているなんて、と発見。
genarowlands

genarowlands