つかれぐま

浮き雲のつかれぐまのレビュー・感想・評価

浮き雲(1996年製作の映画)
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失業者たちの群像劇。
映画の中盤まではこの失業者たちにあまり同情できない。お金に困っているはずなのに大酒を飲み、プライドが高いから失業保険すら受けようとしない。そのくせ他人にたかる。それでいいのかよ!と。似たテーマでもケン・ローチ辺りとは明らかに異なる語り口。

中盤で主人公夫妻に、かつてある重大な悲劇が訪れたことが暗示される(台詞なしでそれが知らされる手際の良さ!)。ここを境に、人にはそれぞれ見えない事情があり、見えている事象だけで判断してはいけないという気持ちにしてくれる。夫婦以外のダメ男たちも徐々に愛おしく見えてくるのだ。

路面電車、古臭いレストラン、ジュークボックス。これらの道具立てからは旧い時代への郷愁が伺える。時代と人間を切り分けるカウリスマキ監督の視点。

フィンランドの話&オフビートな演出が『かもめ食堂』と似ているなと思ってみていたら、話の着地が『かもめ』そのものなのでニヤリ。アル中の料理人を演じた俳優は『かもめ』にも出演(やはり元料理人役で)しているし、明らかに本作へのオマージュになっている。話は逸れるが何本か観た荻上直子監督作品のなかで『かもめ』だけが突出した完成度に思えたのは、そういうことかと合点がいった。