このレビューはネタバレを含みます
優秀な映画は冒頭で全てを語る。
この作品も最初の会話で、それで本当に大丈夫と問いかけてきます。
妻を喜ばせようとカラーテレビを買ってくる夫。(ほんとは自分が楽しみたい)
「嬉しいか?」と妻に聞く。
妻は「またローン組んだの?」と現実的な心配をする、
夫は「大丈夫だ!なんとかなると。」と根拠のない自信で先のことをあまり考えない。
妻は色々と聞いた後に「嬉しいわ」と夫をたてる。
夫はそわそわたテレビのチャンネルをまわし続ける。
妻は「もう寝る?」とバッサリ。
夫は「寝るか」と妻に合わせて現実に戻る。
この一連で、夢をみる男と現実をみる女の姿が描き出され、
「人生は計画的に」という警鐘と、「相手を思う愛が現実を乗り越えさせる」という希望を示している。
物語は不景気によって、2人とも職を失いどん底に向かっていく。
そんな中でも、誇りを捨てず、人生の彩りを求める2人の姿はふざけた様子はないのにどことなく明るい。
ほのぼのした空気で展開されていくが、そこに平気で闇が共存してくるのも妙にリアルで面白い。
夫が再就職できるとなった時、
「働く男に料理はまだか?」とお土産と花を持って、葉巻を加えてロマンスたっぷりに言う姿は愛くるしかった。
妻も「すぐに用意するわ」と健気に夫とのロマンスを再開させるのも素敵だ。
けどその希望もあっけなく消えていく。
健康診断にひっかかり、仕事免許まで取り消しになる。
夫は本当の絶望に陥るのだが、ここでシリアスにせず、棒が倒れるように真横にダイブ。この演出すごく好きです。
そして、妻にも再就職のチャンスがくる。
仕事を紹介してもらう為に全財産を崩し、チャンスを掴む。
しかし、そこはオーナーに信念がない残念な職場。妻はそれでもお金がもらえるならと仕事を引き受ける。
「私があの職場をよくする」と奮起する。
絶望に落ちた夫も支えるように寄り添う。
けど、またトラブルが起きる。
やはりオーナーが良くない。問題を起こして職場は閉鎖。
妻は給料も払ってもらえず解雇される。
夫はオーナーに直談判し、お金を請求する。
悪いやつらに返り討ちにされ、ボコボコに。みっともない姿では帰れないから、遠方で仕事を探してると嘘をついて傷を癒す。
妻は絶望し、無計画の夫に任せていられないと必死にもがき始める。
傷が癒えて夫が帰ってくると、カラーテレビは売りに出されていた。
いよいよやばい状況。
そんな時に、自分たちで仕事を起こそうと起業の話が妻のところにやってくる。
元同僚たちも苦労していて、また一緒に働こう。次は妻がオーナーになって再スタートしようと。
妻は事業計画を立て、銀行にお金を借りにいく。素晴らしい事業計画だが、社会的信頼を得られず融資は受けられない。
頭金のために車を売ったのに、それも役に立たない。
絶望の淵に立った夫婦は一攫千金を狙い、車を売った金をギャンブルに注ぎ込む。
うまくいかず、一夜にして全てを溶かす。
もう本当にどうしようもない状況。
妻は経歴を偽り、なんとか仕事を手に入れようとする。
夫はもう何にもならない。
そんな時に、妻は恩師と再開。
恩師は妻に事業を支援するからやりなさいと見返りを求めず、成功を信じて背中を押してくれた。
そして、事業を立ち上げ、元同僚たちを集め、再スタートをする。
夫も一緒になって働く。
レストランを開業し、初日は全然客が入らず、失敗に終わったかと思っていると、あれよこれよと人が入り、気づけば満席に。
ついに報われた。
この瞬間の溢れ出す喜び(ここも角に出さず、滲み出てる感じがすごくいい!)に、すごく満たされた感覚を覚える。
浮雲のような、留まることなくふわふわと行き先も掴めないような動きをする人生をユーモアたっぷりにみることができる。
これはやはり最高傑作の一つだ。