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楢山節考のarchのレビュー・感想・評価

楢山節考(1958年製作の映画)
3.9
姨捨山伝説を題材に、口減らしにすぐにでも山に旅立つ(自殺)しようとする母とそれを受け入れ難い息子の相愛を描く作品。

全編オールセットで、場面場面を歌舞伎や舞台のような暗転と引き道具を利用したセットの移動で切り替えていく面白い演出が施されていた。その演出が観客に強調させる奥へと移動する運動と、セット故の閉塞感やダリオ・アルジェントばりの照明演出が、この物語が一つの結実に向けての一本道であることを強く意識させ、息子にとっての覆しがたい現実を見事に描いていたと思う。

楢山に行きたがるお婆ちゃんと逃げて必死に生きようと藻掻くお爺ちゃんが対称的で面白い。親子の関係性やその行為自体に対して、どちらにも利と戦慄するような恐怖感が滲んでいて、作品に深みを与える対比構造になっている。自死を儀式的に消化することだスムーズに行う怖さ、しかしそれは他を生かす為の口減らしとして現実的な解決にもなっていて、そういった風習が残酷にもコミュニティの存続に繋がっていて、その状況とシステムによって最後の最後まで抵抗できなかった親子の話なのだろう。

自分たちが70歳になったらと、その状況とシステムから逃れようがないことに諦めている夫婦の姿が最後に描かれ、そこに対してある意味希望的な"現代"の風景を見せる。今では姨捨山という行為はない(はず)だから。
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