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花様年華のmoronのレビュー・感想・評価

花様年華(2000年製作の映画)
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1966年、ポチェントン空港にてシハヌーク国王・王妃と多くの兵や民衆がドゴール大統領を迎えるシーンが終盤に挿入される。アメリカのベトナム戦争介入を痛烈に批判する彼の演説が、同年なされただろう。
同時代の世界情勢が垣間見せられて観衆の胸がざわめきはじめるところ、直ちにアンコールワットに秘密を囁き土で埋め込むチャウの静謐なシーンに切り替わる。

プノンペンでのドゴール演説と同年、文化大革命の本格化した中国から香港への「逃港者」流入がきわまる。「時は移ろい、あの頃の名残は何もな」くなってしまうほどに人びとの暮らしが変わるなかでチャウとスーの再会がかなわなかった場面から、おなじく政治的な動揺のもとにあるカンボジアの空港でのシーンを挟んで、政治の騒がしさとは無縁かのようにアンコールワットが言い伝えの山に見立てられる穏やかで静かなシーンに移るので、余韻がぶっ飛ぶ。
「ベトナム戦争真っ只中でドゴールがカンボジアの空港に到着。ちょうどそのころ同国アンコールワットでは、悲恋の秘密を抱えた男が……」で染み入るのは、いくらその光景が美しくたって無理がある。緩急をつけるために、同時代の政治情況の一例としてカンボジアを引っ張り出してきた上で、そのカンボジアにあるアンコールワットを政治的喧騒から隔絶されたものとして扱うのはかなりしんどい。

色、視線、視点のどれもが抒情的に1時間半ほど映し出された後で、10分かけてこれをぶつけられてしまったので、めちゃくちゃだった。
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