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幸福(しあわせ)のmoronのレビュー・感想・評価

幸福(しあわせ)(1964年製作の映画)
3.8
不穏なモーツァルトって初めて聴いたんだけど……。素直に昼ドラしている陰鬱なパートは弦が担当。全編通じた暖色系のやわらかな画とのどかな音楽が、その異常性を際立たせている。カメラの激しい切り替えは外連味たっぷり。

倫理観がぶっ壊れているフランソワの不倫話、といえばシンプルではある。が、驚くべきはフランソワの快や幸福に向かう躊躇いのなさと、彼の実践する「幸福」に対するわれわれの想像の及ばなさだろう。看板に書かれた、社会性を象徴するような概念語は、彼にあってはまるで効果を持っていないのではないかと訝しまずにはおれない。
とはいえ、基本的には彼は善人そのもののように見えるし、冒頭でもあった失言からも、悪気のなさはたしかなものに思える。不貞が見えていない劇中の人びとから見れば彼は調和的で愛すべき人間であることが、より一層の不気味さと受け入れ難さをわれわれに感じさせる。エミリーに子どもを任せて色づいた秋の森を味わうフランソワがあまりにも独善的なものに見えて、テレーズやエミリーの納得を超えて認めがたい。

ただ、80分でもちょっと長いと思った。
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