moron

満員電車のmoronのレビュー・感想・評価

満員電車(1957年製作の映画)
4.0
新宿の街や電車にすし詰めにされる人々の姿と、地元のバス停や会社の独身寮などの人っ子一人いない空間にぽつねんと突っ立ったり寝っ転がったりしている民雄の姿とのコントラストは、胸を痛めるよりも先に吹き出してしまう。人間同士の顔の近さにうんざりする。テンポの良さと風刺のキレに笑い転げてしまうが、観終わって見るとあまり元気になった感じがしない。
何がいやらしいって、民雄は底抜けにナルシストだから、観衆の同情をあまり誘わないし、何しろ絶望することを知らない。割れた腕時計は父が自信とともに正気をも失ったことを示しているが、同時に、民雄の恵まれつつも夢のない人生設計に向かう時の蝶番が外れてしまったことをも暗示していただろう。それを容易く捨て置いてしまえる民雄のあっけらかんとした調子は、コミカルながら作中で最も気が狂ってしまっている人物が誰であったかを明確に示している。

冒頭、明治9年当時の学校の卒業式のシーンからはじまるが、東大開校が明治10年だったはずではなかったか、この学校はいったい何だ?と困惑してしまい、しばらく台詞が入ってこなかった。少し経ってから、東京師範学校だろうかと納得した。
moron

moron