JunichiOoya

風たちの午後のJunichiOoyaのレビュー・感想・評価

風たちの午後(1980年製作の映画)
5.0
エンドロールに保坂和志の名前を見つけ、急いでパンフレットを買った。いや、矢崎監督と保坂和志と長崎俊一(彼は脚本でクレジットされてる)が同い年で80年に一緒に映画作ってたなんて! 不勉強な私はまるで知らず。

『ユキがロックを捨てた夏』も事故で散々なことになってしまった『九月の冗談クラブバンド』もリアルタイムで経験しているし、保坂さんの本は(半分くらいは文庫だけど)ほぼ全部持ってる。
彼ら三人は、学年でいうと私のひとつ上。矢崎さんをフォローし始めたのは最近のことで、ほんとに我が不明を恥じます。

で、映画自体のことを。
唯一の不満はクローズアップのカメラの揺れ。特に水滴ポタポタの流しの蛇口…。もちろんセットを建てる余裕のあるはずもなく、実際のアパートを使った撮影にはカメラ位置に苦心惨憺だったこと、パンフにも触れられています。にしても、あの揺れはねえ。

あとは完璧。ほんとにあの世界、全部身の回りにあったわ、当時。とてもドラマとは思えない既視感。確かにああいう20代の日常が、あの頃あったんですよ。
HAIGやホワイトといったウイスキー、レイヤーのヘアスタイル、砂浜に沈み込むヒール、そして117クーペ!!

やたら雨の降る東京も良い。そのくせスクリーンからベタつく湿気(中上健次系の、でも中上もすごく良いのだけれど)は感じられず、晩夏の熱もクリスマスの寒さでさえ、恐らくは意図的にカメラから除外している。
そうした「小細工」が気取りではなくリアルをスクリーンに定着させる工夫になってるところが実に好みです。

あと、トップとラストのパートカラーは日活ロマンポルノへのオマージュを感じたなあ。

パンフに載ってるシナリオ、ゆっくり反芻してみたい。
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