継

チャオ・パンタンの継のレビュー・感想・評価

チャオ・パンタン(1983年製作の映画)
4.0
外灯、信号のシグナル、車のヘッドライト。
マイケル・マンの映画のような雨に濡れた石畳の幕開けが、途絶えていた系譜に微かな灯りを点す。

'83年, 仏製ノワール.
移民が関わる時代の必然か、バスティーユ界隈やレピュブリックのマリアンヌ像は添え物程度に映るのみ。
パンタンとはかつてピカソやダリが暮らしたパリ18区の北東に位置するコミューンで、アラブ系住人が多く、治安が悪い事で知られる裏街。

レ・ミゼラブルにも出てくるけれど “操り人形” の意味も持ち合わせ、自分の思うように生きられない運命という意味では本作もダブルミーニングなのか?と思う。
撮影も台詞も何もかも抑制が効いてるというか、押し殺したままで屈折した孤独を撮らえたようでとても好きな作品。

アラブとユダヤの混血の青年、ベンスサンは麻薬の売人でバイク泥棒。ランベールに助けられ、ローラをひっかけ、無免許でタンデムで盗んだバイクで走り出す♪、お先真っ暗な将来。

ローラは革ジャンに髪の毛逆立てた'til tuesday 時代のエイミーマンみたいなパンキッシュなヒロイン。当時のカルチャーを映すがファム・ファタールではなく、帰る家もない。

冴えない中年男のランベールはガソリンスタンドの夜間給油係。孤独で無口だがベンスサンのマリファナとバイクには厳しく釘を刺す。
しみったれた、アル中の人生はある事をきっかけに明らかとなり、己を過去へ縛りつける糸を断ち切らんと動き出す。

『天井棧敷の人々』で19世紀のパリを再現した美術監督アレクサンドル・トローネルのセットの作り込みが物凄い。
ベンスサンのアパルトマンに岩波新書みたいな教養書を並べ、部屋へ招いたローラを感心させるがそれらはブツを隠す為で読まれた形跡はなくて。
しがない売人のバイク泥棒、盗んだバイクを見せびらかすのと一緒で自分を良く見せる為なんだろうなと、不釣り合いな舞台装置がコンプレックスを見せるように虚ろな内実を雄弁に伝えている。
ランベールの、孤独とアルコールで煮詰まって疲れきったような中年男の部屋なんか実際に10年くらい住んでるような生活感が充満していた。

ランベールを演じたコリューシュは過激な芸風で知られたコメディアン。本作で見せたギャップでイメージを変え、俳優として評価を高めたそうだが、
予(あらかじ)め、そうした刷り込みがあって本作を観るのと、そうでないのでは受ける印象は違うのかもしれない。
プライベートでは慈善活動にも尽力し、その人気を追い風に'88年には大統領選に立候補を表明するも交通事故により死亡。暗殺とも噂されたという末路、操り糸を断ち切って歩き出そうとしたその矢先の出来事、、Tchao, Pantin .
継