継

砂の女の継のレビュー・感想・評価

砂の女(1964年製作の映画)
4.5
広大な砂丘に口を開けた スリ鉢状の窪地
獲物が落ちて来るのを待つ この巣穴の様な底地に暮らす女と
蟻地獄に嵌まった蟻のように 捕らわれてしまった男の物語.

よじ登ろうとする男をあざ笑う様に足元から崩落する砂
風に舞い窪地へ滑り落ちては家を押し潰さんとする砂
重みで家が潰れぬよう掻き出す,その汗ばむ肌にじっとりとまとわり付く砂
砂まみれのまま寝入る女の, 横たわるその裸体の起伏にも似た砂紋を描く砂、砂、砂…。

前にレビューした『乾いた花』同様, criterion盤を鑑賞。
まるでこちらまで砂に埋もれてしまう様な感覚に陥る147分。
シュルレアリスムな筆致が特長的な文筆家による脚本と, 前衛的な生け花の家元(草月流)の跡取りである監督という, 異色のタッグによる不条理且つ官能的なスリラーです(1964年公開,モノクロ作品)。


よそ者も立ち寄らぬほどに僻地の, 小さく閉じたコミュニティ。
戦争未亡人のメタファーなのか, 地上の隣接する部落の者たちに理不尽な支配を被りながらも表向きは気丈に振る舞う女(岸田今日子),

教職の休暇を利用した旅行で趣味の昆虫採集のはずが
序盤に映す,採集した試験管🧪から抜け出そうと必死に足掻く虫のごとく
皮肉にも自らが捕らわれてしまう男(岡田英次) .

巣穴として建てられた女の棲み家はリアルな生活感を湛えていて美術チームの質の高さを見せつけますが, 地上から見下ろすこの家の造形/存在はちょっと異様で, 見ようによっては巣穴の主として男を喰らわんとする“甲虫類の虫”にも見える(気がする)し, 四方を海に囲まれたこの国のようでもある。
余計な説明を省いた事で, 男・女・部落の男達やその関係性, 加えて家の存在は, 観る人によって様々なメタファー・解釈が出来そう。

でも説明は足りない訳では決してなくて,
女の, しきりにラジオを欲する様子や, (巣穴から運び出して)医者へ診せねばならない程の激痛にも拘わらず “出たくない‥” と呻くさまは,
巣穴の単調な毎日には飽き飽きだが, かと言って町では暮らしていけない/生きていけないと諦めている心情を浮き彫りにするようだし、

男の, 東京人・教師として上から見下すようだった視点が文字通り下から見上げるアングルへと次第に逆転してゆくさまは, 何よりも映像が雄弁に物語っていました。

東京へ希求していた社会的な帰属意識や承認欲求を絶たれ “もはや不可能‥” と諦める絶望。
だが,それが可能だからとまさかの部落の者へ矛先を変えて繋がろうとする卑屈とも言えるこの心境の変化を,当人にモノローグで言い訳がましく言わすアイデア, 冷徹な視点が痛烈!

「砂は湿気を呼びますから…」
抜け出す為に仕掛けた罠が, 思いがけずそこで生き抜く為の方策へ転じてしまうこの皮肉…上述の女の台詞を伏線として回収する, 全く予想も出来ない見事なオチでした(^^)。
継