宇尾地米人

Mの宇尾地米人のレビュー・感想・評価

M(1931年製作の映画)
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 大監督フリッツ・ラングが41歳で完成させた代表作の一つ。犯罪恐怖映画、スリラー映画の原点とも誉れ高い名作。確かに観てみると、いまから約90年前、1931年でこれほど不穏な映画が出来上がっていることに驚きです。ベルリンで少女連続殺人事件が騒がれる。8人もの犠牲者が出て、警察は手掛かりひとつ掴めない。外で遊ぶ子供たちは不吉な歌をうたっているし、いつ次の事件が起きるか。市民は不安になり、警察への不信感が募る。人々はオットー・ベルニッケ警視正を罵り、「早く殺人鬼を捕まえろ」と騒ぎ立てる場面。事件で頼みの綱は警察組織なのに、捜査の難航で当てにできないという不信感。日本を含め、いつの時代もどの国でも見られることですね。韓国社会や韓国映画の描写なんか特に顕著ですね。そういうわけで、映画の前半、凶悪事件による波紋。社会の震撼。人々の不安感不信感。凶悪犯への嫌悪感。警察の捜査規模がどんどん広がっていくところ。身分証を提示できない人は次々連行していくあたり。景気が悪くなったり、街中が警察だらけになったり、平穏から遠のいて感情が苛立ってくるところ。

 後半、犯人が次に手を掛ける女の子を狙い出してから、嫌らしい恐怖が出てきます。盲目の風船売りが、前に女の子が殺されたときと同じ口笛を聞いた。若い男を呼びつけ、「いま口笛吹いてるのは誰だ。追いかけろ」と言った。若い男が追うと、口笛の男は女の子と一緒だ。犯人と確信した若者は口笛の男のコートにこっそり「M」の印をつけた、このサスペンスタッチ。淀川さんも「ヒッチコックがラングを真似たんじゃないかと思うほど見事なスリル、サスペンス」と太鼓判を押したほどの緊迫した映画タッチ。みんなが「M」の男を追いかける。いよいよどのように追い詰めるか。この殺人事件がどんなふうに終わるのか。ということでこの映画は最後まで怖かった。人間の非情残酷が出たサスペンスの名作。ドイツの映画感覚がどれほど鋭いものかが分かりました。
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