小波norisuke

そして、私たちは愛に帰るの小波norisukeのレビュー・感想・評価

そして、私たちは愛に帰る(2007年製作の映画)
5.0
ドイツとトルコを舞台に3組の親子の人生が錯綜する。

鍵となっているのがイスラム教の祭典の一つである犠牲祭。神の命令に従い、愛する息子を生贄に捧げようと、心を痛めながら山を登る父親の信仰を認めて、神が息子の代わりに生贄にするための羊を山に遣わしたことを覚えた祭典。この父親の話は、必ずしも祭典としては祝わないが、アブラハムの宗教と呼ばれる、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教が共有する「物語」(と、呼ぶかどうかは議論があるとして。。)。キリスト教の教会学校では、必ず習う有名な話であり、「主の山には備えがある」という聖句は、多くの人の愛唱聖句である。

図らずも異国で命を落としてしまうトルコ人の母と、ドイツ人の娘。二つの棺が飛行機で行き交う映像が印象的である。

愛する娘の死と向き合おうとするドイツ人の母と、母の死を知らないが自分のせいで愛する友人を失ったトルコ人の娘が、深い悲しみから再生しようとする。二組の母娘と数奇な縁で関わった、トルコ系ドイツ移民の息子も、父との確執を乗り越えようとする。この傷ついた者たちに呼びさまされた深い愛情こそが、主が山に備えてくださった羊ではないだろうか。

原題は、「The Edge of Heaven」。

秀逸な作品。しかし、鑑賞直後はどう受け止めてよいのかとまどい、翌日になってぐわぁーーーといろいろな思いが込み上げてきた。

アキン監督の新作公開と併せて、イメージフォーラムさんで1週間のみの再映。観れてよかったーー!
小波norisuke

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