むさじー

神々の深き欲望のむさじーのレビュー・感想・評価

神々の深き欲望(1968年製作の映画)
4.0
<人間の原初的な性と生と死>

それまで庶民の生活感あふれるバイタリティをリアルに描いていた今村が、視点を神話的な世界に変え圧倒的なリアリズムで挑んだ作品。
土着信仰に支えられたムラ社会にあって、若者は古い因習の束縛から抜け出したいと願いながら、一方でその因習に守られながら生きている自分をも感じている。神事、夜這い、村八分、私刑‥‥野蛮さと性の奔放さに満ちた古い因習。それは村落共同体に生きる宿命として受け入れざるを得ない、古来日本人が選択した一つの生き方であり、共同体の在りようだったのだろう。
そんな社会に、金欲にまみれた近代化の波が押し寄せて変質を迫り、それによって古い因習が呑み込まれ葬られていく。描かれるのは神話の時代の終焉。
どこか近代化を否定するような視線も感じるが、それよりも今は失われた日本人の生き方を描いて、近代化で喪ったもの、日本人とは、と問いたかったものと思う。シンボリックに描かれる巨岩や赤い帆が何を意味するのか、モヤモヤが残った。
そして、後年の『楢山節考(83年)』を想起した。共に人間の性と生と死を描いているのだが、その違いは生と死に対する視点。『楢山節考』が口減らしという形の死や断念を描いているのに対し、本作は誰もが生き残ろうとする、その生と欲への執着がすさまじい。
今村らしい原色のコントラスト、南国のむせ返るような湿度感、鬼気迫る熱量の演出、どの役者も必死だ。多くのエピソードを残した、困難を極める撮影だったことが偲ばれる。嫌悪感を抱く人もいそうだが、そのパワーと衝撃に圧倒される。
むさじー

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