むさじー

街の上でのむさじーのレビュー・感想・評価

街の上で(2019年製作の映画)
3.8
<下北の空気で描く普段着の青春>

下北沢の古着屋で働く荒川青は、彼女の川瀬雪の浮気が原因で別れ落ち込んでいる時に、卒業制作映画への出演依頼が来て監督の高橋町子に出会う。馴染みの古本屋店員・田辺冬子に練習に付き合ってもらうが、緊張感で演技にならずカットされてしまう。その後の飲み会で衣裳スタッフの城定イオに誘われて恋バナついでに彼女の家に泊めてもらい‥‥。と他愛のない話が延々続くのだが、ジーサン世代の私が観ても結構面白い。
何と言っても極端な長回しとナチュラルで軽妙なセリフ回し、そこから生まれる独特の空気感は脱力系の面白さに溢れていた。巨匠が撮ればNGと思われるシーンにも笑いが生まれる。
最も笑えたのが、青とイハ、イハの元カレ、雪と飲み屋のマスターの5人が遭遇する修羅場的なシーン。すれ違いと誤解のカオスで、その噛み合わない会話と掛け合いは絶妙のアンサンブルだった。
本作の面白さはギャグやアクションによって生まれるそれではなくて、独特の間やズレによって生まれる面白さ。そして観客は登場人物に共感している訳ではなく他人事を見る面白さで、俯瞰的な笑いに興じているから心地いい、距離があって薄味だから心地いいのだと思う。
多分だが、若者と年配者では面白さの感じ方が違うのではないか。若者は己が身辺の“あるある”の面白さを実感しているだろうし、それと縁遠い年配者は絶妙のコントを見ている心持ちだ。いずれにせよ、心地いいのは幸せなことだ、と思う。キャラの立った4人のヒロインが皆いい。
むさじー

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