むさじー

ラブ・レターのむさじーのレビュー・感想・評価

ラブ・レター(1998年製作の映画)
3.8
<不平等な搾取社会に生きる痛み>

新宿・歌舞伎町で裏ビデオ店店長をするチンピラの吾郎は、ヤクザの親分に頼まれて中国人女性・白蘭と偽装結婚をさせられる。その町には難民が溢れ、不法就労も売春もあって、それを管理し搾取するヤクザが取り仕切って裏社会を形成している。そして人生の挫折者と這い上がろうとする者たちの吹き溜まりのようで、猥雑で荒々しく、それでいて人情味もある町の空気だ。
二人はその後会うこともなく過ぎて突然、吾郎は白蘭の死を知らされる。やむなく舎弟を連れて吾郎は彼女の遺体を引き取りに行くが、遺留品の中に自分宛ての手紙を見つけた。
亡き白蘭を火葬場で見送った吾郎は、人が死んでいくのに誰も弔おうとしない冷たさと哀しみに慟哭する。その怒りを倍賞美津子演じる売春キャバレー女将にぶつけると、女将から「自分もあんたも搾取する側の人間。万事金の世の中では加害者なんだ」となじられる。人情だけでは解決しない、不平等、矛盾だらけの世の中への怒りを森崎らしい表現で告発する。搾取する側とされる側だけの世の中で、身勝手な加害者の論理ではあるが、それぞれの生きていく辛さもうかがえてやり切れない思いがした。
ベタなB級映画の展開で、終盤のファンタジー感は蛇足のように思えるが、泣かされることは確かだし、どこか心惹かれる映画だ。そしてこの映画でしか見ていないが、主演女優・耿忠(コウチュウ)の清楚でピュアな佇まいが印象に残る。
むさじー

むさじー