救済P

秒速5センチメートルの救済Pのレビュー・感想・評価

秒速5センチメートル(2007年製作の映画)
3.5
ねぇ、なんだか「MV」みたいじゃない?

短い時間にメッセージ性を凝縮する技巧を演出、美術、セリフとあらゆる点で発揮した結果最上級のクオリティを誇るMVに仕上がった映画。

語るまでもまく映像表現は無類。光、水、アスファルト、草木、空と背景を構成する自然物、人工物が非常にディティール細かく描かれ、そして美しく魅せるための映像表現によって装飾され類を見ないほど美麗な画が出来上がっている。

少年少女の青春の始まりと終わりまでが描かれている。率直に言って、こういう作品をなんら構える必要なく心から楽しむことができる人間と、私みたいに様々な評価尺度を持ち出し、考察し、新海誠に思いを馳せることでやっと消化することができる人間に二分されるのだろうと感じた。
基本的に主人公たちの独白によってストーリーが進行していくが、考察の余地のない若者の心情の吐露はクオリティの低いポエムと変わらない。前述した抜群の映像表現によって”見れる”画に仕上がっているが、彼らのポエムが60分間にわたって紡がれることには変わりなく、これを心が貧しいと切って捨ててしまえば簡単だが、なんとも厳しいものがあった。

前作『ほしのこえ』や、続く『雲の向こう、約束の場所』に見られた、宇宙(=SF的世界観の構成要素)が、隔絶された男女の心理を表すためのメタファーとして機能している点に、新海誠の一貫性を感じられてよかった。映像に関していえば、『星を追う子ども』に顕著な、宇宙と地上が混然一体となったような美しい異次元空間が、精神世界の描写に使われており、現実との差異を表すとともに画面の美しさを損なわないように工夫されていた。

捉え方によってはバッドエンドと結論づけることもできる終わり方は主題歌とともに行われるタイトル回収によって際立った印象を残した。これまで(キツイ)ポエムによって語られていたシナリオを主題歌の「歌詞」に一任することで”臭み”が消え去り、爽やかな絵面となった。シナリオに沿った歌詞は少年少女の心情を軸に進行していたシナリオがより一般化される形になり、彼らだけでなく視聴者についても共感し、主人公たちの人生を他人事ではない親近感をもったものに変容させている。

冒頭に記したように作品全体がMVのような構成をとっているため、主題歌を流しセリフを削ったラストの主題歌のシーンは本作品の中で最もクオリティが高く見応えがあった。

映像表現は素晴らしく、また主題歌の歌詞に結実するシナリオは視聴者と一体となって共感を誘うが、その道程であるキャラクターの独白には深みのない幼さを感じてしまい、没入を厳しいものにしてしまった。
最後に主人公が約束した駅に戻って一人カップラーメンを啜り「日清・カップヌードル」とロゴが出てくる存在しないオチの映像が頭から離れない。
救済P

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