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月は上りぬの教授のレビュー・感想・評価

月は上りぬ(1955年製作の映画)
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田中絹代の監督2作目。

前作の「恋文」と同様で、映画という物はほぼほぼ「男目線」によって一方的なまでに描かれ続けてきたことがよく解る。
良し悪しではなく、男性からの物の見方、描き方と、女性からの物の見方、描き方というのは、明らかに人物への視点が違うというのは不思議に感じる。

物語を推進して、あるいは引っ掻き回す節子(北原美枝)、喜怒哀楽なかなか表に出さない綾子(杉葉子)、戦争未亡人の千鶴(山根寿子)の三者三様の恋愛模様というのが「よく見れば」浮かび上がるという物語。

つまり、映画としてはあまりずば抜けた「完成度」の高い作品とは言えない。
どうしても序盤のモタつきはあって、テンポは悪くないが、物語が状況説明に終始している点と、画的な面白さにも乏しい。

ただ、中盤から節子がノリノリでお節介を焼き始め、田中絹代自身が演じている使用人を「演出する」というコメディシーンの楽しさから明らかにトーンが変わる。
さらに田中絹代の俳優としての上手さにも圧倒される。

また綾子の恋愛のぎこちなさや、進展に伴い、ラブコメ度が急速にアップし、意外にもモダンな作劇に驚く。
特に月夜の邂逅のシーンには非常に映画的な上手さもあって素晴らしい。
これまで快活に世話を焼き続けてきた節子の自身の恋愛模様になると、若さ故になかなか修復できないもどかしさもあって面白く展開していく。

ラストに残された父親(笠智衆)と千鶴の2人のシーンは、如何にもな脚本小津安二郎的なアングル、演出になってはいるが、一気に映画のトーンが変わり、味わい深さもないではないが…どうしても「小津的」であり、違和感を感じる。

ただ瑞々しさを感じるエピソードは多く、映画的な画面作り、物語作りも感じるシーンはあるので、非常に誠実なつくり方を感じて僕は嫌いになれない。
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