カタパルトスープレックス

激動の昭和史 沖縄決戦のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

激動の昭和史 沖縄決戦(1971年製作の映画)
2.6
「東宝8.15シリーズ」の第五作目です。第一作目『日本のいちばん長い日』の岡本喜八監督が再びメガホンを取ります。「激動の昭和史」の冠がついた前作と今作は当時のドキュメンタリー映像を織り交ぜて使うのが共通点です。特撮やドラマよりも史実を追いかける感じ。

本作の舞台となる沖縄決戦は太平洋戦争の後期にあたります。1945年3月26日から6月23日です。すでにイタリアは降伏(1943年9月8日)。この沖縄決戦の期間にドイツも降伏(1945年5月8日)しています。日本だけ徹底抗戦。しかし、です。決着はすでについていたんです。だいぶ前に。1944年7月にサイパンが陥落してほぼ決着はついていました。東京大空襲も広島の原爆もマリアナ諸島から飛んできたB29によるものです。もう沖縄の一年前に勝負はついていたんです。もっと言えば、その二年前の1942年のミッドウェー海戦の敗北で制海権(=制空権)が取られて勝負はついていました。何でやめないの?

日本は沖縄決戦の後、映画『日本のいちばん長い日』(1967年)でも描かれているように降伏要求の最終宣言であるポツダム宣言を言い渡され(1945年7月26日)、広島(8月6日)と長崎(8月9日)に原爆を落とされ、ようやく戦争をやめることができました(8月15日)。それを「敗戦」と呼ばず「終戦」と強がっているのがいかにも日本ですが。「占領軍」を「進駐軍」と言ったり。「撤退」を「転進」と言いなおすメンタリティーから全く抜け出せていません。どんだけ負けず嫌いなんだよ。だから戦争がやめられないんです。

そんなわけで、沖縄決戦で多くの人が死んだのは、日本が負け戦なのに戦争を続けたのが原因です。直接的にはアメリカの軍隊が殺したのですが、本質的には戦争を続けること自体が日本人による自殺行為でした。本作ではその辺が全く描かれていない。沖縄の現場と東京の大本営の温度差が描かれるだけ。ただ、沖縄も大本営を戦う気満々。沖縄の人たちまでイケイケです。そして、死にたがり。つーか、誰か止めろよ。この映画を観ていて出てくる感想はこれだけ。喜劇でも不条理劇でもなく、普通のドラマだから批判性が生まれません。戦争を悲劇で片付けるのは簡単。誰でもできる。

岡本喜八監督は非常に優れた監督だと思います。ただ、岡本喜八監督の本質はコメディーやアクションだったと思うんですよね。テンポの良さはコメディー作品にこそ活きる。同じ戦争を舞台にした映画も『独立愚連隊』(1959年)とかとてもよくできている。あの作品はメッセージ性とか排除して、エンターテイメントに徹していましたから。

本作は「東宝8.15シリーズ」の中でも一番つまらないかなあ。もともとやらなくてもいい戦争だった。そのバカバカしさが全く描けていない。本土から見捨てられてかわいそうな沖縄。戦争の悲惨さを描きたかったんだろうけど。ただそれだけ。もっと描くべきことがあるだろう?何でこんなことになってしまったのか。日本の戦争映画は常にそこを避けますよね。

なぜ、イギリスは『ダンケルク』(2017年)のような撤退戦ができたのか?なぜ沖縄では『ダンケルク』のように撤退できなかったのか?撤退したイギリス軍と玉砕した日本軍。どっちが勇敢だったんでしょうね?その点が反省できない限り、日本は同じことを繰り返す気がします。この映画だけじゃないですが、日本の戦争映画は哀れんでいるだけで根本的な反省はないです。