シェパード大槻

ベニスに死すのシェパード大槻のレビュー・感想・評価

ベニスに死す(1971年製作の映画)
5.0
3回目

恋は惚れた方が負けというけれど特に叶わない恋の場合は恋心がだんだん罪悪の感じになっていき、あの子にバレないように見た数だけ想った数だけ罪を負うことになる。自分が汚いものになっていく感覚、悪役、自分の大胆な行動によってまた加速する罪悪。
「気が引ける」という感情は普通の映画に於いてはあまりフォーカスされないが、あの美少年に対して彼の惨めさったらない。若づくりの墨も垂れちゃう始末で。私は何故今まで若さの素晴らしさには気づいていたのに年寄りの悲しみの素晴らしさに気づかなかったんだろう。墨が垂れちゃう老人だけが悲恋の主になれるのだ!そして誰の中にもこのおじさんが居る、タ-ジオもいる。
もっとひどいのは芸術業でも彼は美少年に打ち負かされたこと。平凡で正当な芸術家だった彼は恋のせいで(精神ではなく)感覚に服従させられた。"正当"の道を逸れた。ついには芸術だけでなく命まで差し出した。つまり喜劇ってこと。

婉曲だけど考える時間が与えられているし、余計なセリフがなくて映像は美しくてステキ。