もとまち

愛する時と死する時のもとまちのレビュー・感想・評価

愛する時と死する時(1958年製作の映画)
4.1
愛と死は振り子のように。どちらも手ぬるく描いたりはしない。ストレートなメロドラマでありながら甘っちょろさは欠片も無く、その平行線上で血と暴力に塗れた戦場の地獄を徹底的に描いてみせる。腐敗して黒く変色した死体のグロテスクさ、一寸先にあった建物が爆発で木っ端微塵に砕け散る恐ろしさ。若きクラウス・キンスキーの登場はゲシュタポの残虐性をさらに際立たせる。生きるためにもがき、善悪の狭間で揺らぎ、戦時下の異常な状況に揉まれ続けてきた市民たちの姿。主演ふたりのロマンスに主軸を置きつつも、市井の人々の確かな息遣いが感じられる。人間としての正しさを求めた主人公の選択が、かえって皮肉な結果を招いてしまう結末は素晴らしい。葛藤の末の非情な落とし前。それが現実。象徴的なラストカットもバッチリ。
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