ブタブタ

不連続殺人事件のブタブタのレビュー・感想・評価

不連続殺人事件(1977年製作の映画)
4.5
《好色!傲慢!文壇画壇の才人奇人が入り乱れる狂気の酒宴》
(予告編より)

純文学作家で非ミステリー作家の坂口安吾による原作は、かの有名な三大アンチミステリー『ドグラ・マグラ』『虚無への供物』『黒死館殺人事件』の系譜ではなく寧ろ極めてオーソドックスな本格推理物としての評価が高いのですが自分はそうなのかな~と疑問を感じていて同時代の探偵小説作家、江戸川乱歩でも横溝正史でもない、また別の探偵小説のスタイルを作ったのだと思います。

お話しはは不条理かつ登場人物は皆嫌な奴ばかりで言い方を変えればキャラが立っている。
兎に角登場人物が多く冒頭部分を使って30人近いキャラクターの紹介を一気にやってしまう。

山荘に集められた人々とそこで起こる連続殺人。
そして県の本署から、この殺人事件の捜査のためにやって来る「二つ名」をもつ刑事たち。

どんな犯行も一目で勘ぐるという通称”カングリ警部”

どんな手口でも嗅ぎ分けて犯人を見つけ出すという通称”八丁鼻”刑事。

単純な事件も難しく解釈してしまう通称”読ミスギ”刑事。

そして残念ながら映画には登場しない閃き型の女性刑事通称”アタピン”(←メイド役で出てる岡本麗さんにはこっちをやって欲しかった)

これは後の西尾維新の『戯言シリーズ』や清涼院流水の『コズミック』シリーズ等の多数のキャラクターが入り乱れ、そこに特異な能力を持った探偵がやって来るスタイルの原点とも言えると思います。

それと舞台は山荘ですが外界と隔絶された所謂「クローズドサークル」ではなく出て行こうとすれば出ていけるのに、更に皆の中に殺人鬼が潜んでいるにも関わらず誰も山荘を去らない異常さはブニュエルの『皆殺しの天使』を思わせてこれが普通の(?)ミステリーではなくシュルレアリスム文学の色が濃いと感じます。

語り手たる夫婦で山荘に招かれる矢代寸兵と彼の友人で山荘の所有者一族の当主・歌川一馬が矢代夫妻と素人探偵・巨勢博士を手紙で呼び寄せる事から話しは始まり、この二人が主人公かつ狂言回しの役割ですが原作同様非常に影が薄く又魅力的とも言い難いキャラクターで、探偵・巨勢博士も最後に事件の真相を明らかにする以外活躍はたいしてしません。

ある意味主役と言っていいのが内田裕也演じる画家・光一で渾名はピカイチ。
ピカイチは邪悪さとチャーミングさが同居するトリックスター的なキャラクター。
いつも上半身ハダカにサスペンダーのスタイルで、一馬の妻あやめの元夫。
兎に角この2人が仲が悪く顔を合わせれば罵りあい、取っ組み合いのプロレスみたいなケンカを始める。
人妻でも平気で口説き女性蔑視的な発言をすると思えば病弱な歌川家の娘・加代子には優しかったりする。
「セムシの詩人」内海との道行きでは
「セムシの先生、俺が押してやるから大八車に乗りな」と身体の不自由な内海を気遣うと思えば、脚が「びっこ」の海老原医師の言動に腹を立て座ってる椅子ごと持ち上げて部屋の外に放り投げる等、やる事がメチャクチャ。

“不”連続殺人とは一体何なのか?
犯人当ての推理劇よりもやっぱりシュルレアリスム劇、カフカの『城』とは逆に何故か出る事が出来ない場所である山荘。
個人的には三大アンチミステリーに続く四番目の作品にしてもいいのに、と思うのでした。
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