わたしたちは歴史を勉強しますが、おしなべて教科書からおおよそ外れることはありません。
日本兵や軍隊の何をどう知っているか。
未経験であれば当然知識でしかありません。
また経験者であっても当然戦況の全てに精通していたわけではなく、本人だけの体験談です。
この作品は、映画は虚構で寓話であり、芸術で娯楽であることを強く感じさせます。
反戦でも反日でもなく、ありがちなプロパカンダに成り果てることがなかったチアン・ウェンの矜恃を感じさせます。
勝利や敗北、善悪など、明日には全てがひっくり返るような世界に生きていれば、誰もが鬼となり得る。
そんな当たり前のことを、ユーモアと皮肉で描いた作品です。
ストーリーが急展開する後半。
花屋小三郎は捕虜だったのか?
村人たちの罠なのか?
この作品では直接描かれていませんが、中国側の便衣隊という戦争における国際法違反は、結果、自国の無辜の民を危険に晒すことでもありました。
ゲリラ隊がいかに恐ろしいか。
東京裁判では相手にされず、アメリカの理解はベトナム戦争を待たねばなりません。
8年も異国の地で疲弊していた日本軍。
彼らの懐疑心が爆発するとき、全体主義の恐ろしさに満ちています。
不仲で有名だった海軍と陸軍を使うセンス。牧歌的だった前半との対比。
チアン・ウェンが批判したかったのは、日本軍でも連合軍でも国民党でもないことがわかります。
モノクロ画面は当時を効果的に再現し、強弱のついた陰影や顔アップの多用は緊張感を、布越しの柔らかな人影などは幻想的でシーンによっての使い分けが見事です。
オーディションで役を得た香川照之。
彼の演技がくどいとかオーバーだと思う人には、この作品をぜひ見て欲しいです。
作品の質と同化するとはこのことだと感じました。