Tully

モンスターのTullyのレビュー・感想・評価

モンスター(2003年製作の映画)
4.0
少女が自分の夢を語る。その語る夢は、歌手に、女優に、ヒーローに、プリンセスになりたい。誰もが経験する、夢見がちな年頃。願えば何にでもなれると、信じていた時代。しかし、現実はそんな簡単にはいかない。歌手や女優はおろか、目の前の幸せでさえ、何の努力もせずに、手に入れることは難しい。成功を羨む人々は、口々にこう言うだろう。「もっと努力していればよかった」と。「努力すれば、何にでもなれるたのに」と。では、本当に努力さえすれば、幸せは手に入るものなのだろうか?彼女は、その事実に対して苛立つ。これまで、男にこんなにも尽くしてきた。家族に対しても、できるかぎりのことをしてきた。身体を張って彼女は人に尽くしてきた。しかし、その努力の結果はどうだろう?だんだんと歳をとっていき、惨めな自分の姿。そんな彼女を愛してくれる男なんて、それでもどこにもいない。いったいどんな努力をすれば、幸せにありつけたのか?そんな彼女に差し伸べられた、天からの蜘蛛の糸。初めて、彼女を好きだと言ってくれた若い娘。よかった。うれしかった。彼女は感激し、また新たな一歩を踏み出す。それならもう一度、仕事に就き、努力してみよう。努力して、今度こそ幸せをつかみ取ってみせるんだ。ところが、社会はその気持ちをはねつける。生まれも話し方も悪い娼婦を、誰も相手にはしない。「常に選択を間違え、間違えっぱなし」社会は彼女をそういう目で見る。どんなに彼女が本気になろうと、社会は彼女を救おうとはしなかった。それでも、愛する人と一緒に幸せになりたい。それさえも、自分はどうして手に入れられないのか?愛する人のためなら、自分は何だってするというのに。この命さえ、身体さえ、何一つ惜しくはないのに。だって彼女を失えば、生きる意味自体が失われるのだから。そして再び、彼女は「選択を間違えた」 決して人が選ばない道を、彼女は選んでしまう。愛する人に対して尽くしたいという、その気持ちが、あまりにも純粋なばかりに。誰かのそばにいたい、そんな些細な幸せですら、背伸びをしなければ届かない人がいる。それはいったいなぜ?両親にも、友人にも、最初から恵まれる人もいる。恵まれていても、不幸だという人もいる。けれどもそれすらも、何一つ叶わない人もいる。それぞれが生まれつき、与えられた環境。宿命のように人生に貼りつき、一生はがれないレッテル。彼女はそれらに振り回された。そして、自分人生を棒に振った。一方で、そうやって幸せを貢いでくれる娼婦に、恋人は気がつきながらも、彼女を止めようとはしなかった。むしろ彼女に貢がせ、そして幸せを享受してきた。いまでも、みんなの幸せを夢見る、純粋な信じやすさ。そして、与えられた環境に甘え、それを吸い尽くす剛胆さ。彼女のような人々で、埋め尽くされているこの社会。それが貧者を、いまもゴミために押し込めている。それが現実。努力だけでは報われない、現実の中で、薄汚い娼婦と、人を信じやすい若い娘。本当のモンスターは、いったいどちらだったのだろうか。
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