むさじー

愛・アマチュアのむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

愛・アマチュア(1994年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

<記憶を失くした悪人と聖女を巡るノワール>

長年の尼僧生活からポルノ作家に転じた女性イザベルは、記憶を失くした犯罪組織の男トーマスを拾って介抱し、トーマスを憎む妻のポルノ女優ソフィアは組織の金を横取りしようと企てて命を狙われ、人生につまずいた3人が複雑に絡み合って展開する。
人はときに変化を願ったり、変化を余儀なくされることがある。
トーマスは記憶を失くしたことで人生のリセットを強いられ、ソフィアは夫の記憶喪失によって念願だった完全な決別ができたが、それでは聖と俗の間を行き来するイザベルの変化はというと、トーマスとの関わりによって“愛”という不可解なものに出会ったこと。
“救いたい”という聖女の思いから、俗世の女性らしい感情が芽生えていく、そんなイザベルの愛こそ本作のテーマであり、タイトルの由来と解した。
誰もが人生を歩むことに不慣れなアマチュアで、その不器用さが愛おしい。
ラスト、イザベルは警官の問いに「(男を)よく知っているわ」と答えるが、そこには確かに男を愛していたという特別な感情が込められ、流れたのは別れの涙だった。
突き放すような何とも意味深な終わり方だが、純粋で何も知らないイザベルにとって、男の悪しき過去を知ってなお、そのまま愛そうとした自分がいて、愛したことを胸にこれから生き直そうとする決意が見える。
ポルノ作家を続けるのか、尼僧に戻るのか、どう生きるのかも観客に委ねてしまう潔さ。
混沌として予測不可能で、緩めでポップなノワールだが、多様な解釈を許して深読みを誘う。一筋縄ではいかない。
むさじー

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