明石です

ノスフェラトゥの明石ですのレビュー・感想・評価

ノスフェラトゥ(1978年製作の映画)
4.3
寓話のように美しいドラキュラ映画。

トランシルヴァニアの古城に住む、真っ白なお顔の禿頭紳士「ドラキュラ伯爵」が、ドイツの田舎町にお引越し。町中を恐怖に陥れる話。古典的なドラキュラ物のストーリーを踏襲しつつ、1922年公開のFWムルナウの元祖『ノスフェラトゥ』を忠実に、そして美しく再現したドイツのホラー映画。あのチョークのように真っ白な顔に禿頭のドラキュラ伯爵が普通に喋って、色恋に近い殺人に耽る姿はなかなかのホラー。しかしこの容姿の人間が普通に受け入れられてる世界観すごいね笑。どう見ても異常者じゃん!!と思ってしまうのに、平常にストーリーが進行するからなおのこと。

主人公の男(本リメイクはヒロインのイザベル・アジャーニがメインなのだけど、一応立ち位置的には主人公)の名前はジョナサン・ハーカーだし、吸血鬼の宿敵となる町医者(本作の町医者は科学の狂信者で、迷信嫌いの役立たずなのだけど笑)の名前はヴァン・ヘルシングだし、どこからどう見てもブラムストーカー由来の本家ドラキュラに寄せてきている。サイレント映画だったこともあり、喋る気配さえなかったあのノスフェラトゥが普通に「ドラキュラ伯爵」をやっていることを除ければ、本家ドラキュラにかなり近い仕上がり。

しかし棺に入った吸血鬼が船で運ばれてくる後半以降の展開はノスフェラトゥ流のシナリオで、吸血鬼と一緒に棺の中に入っていたネズミが媒介するペストが町中に広がり、ゴーストタウンと化してしまう現実怖い展開は、よりグロテスクに再現されてる。記憶にある限り、元祖ノスフェラトゥはあの常軌を逸した吸血鬼のルックスと、彼と一緒にペストが運ばれてくる展開に恐ろしさが詰まってたように思う。サイレント映画では若干理解しづらかったその辺りの因果関係がよりクリアに描かれてるのは嬉しいところですね。波止場にはじまり、しまいには町の至る所に群がる無数のネズミを執拗に映したショットは個人的には発狂ものでした。しかもネズミの色がくすんだ白なのが狡猾。色が色だけに、引きで見たら死肉に群がるウ●虫みたいに見えちゃうし(それが狙いなのだとは思うけど)。

一方で序盤から中盤にかけての数々のショットは絵画のように美しく、主人公が古城へ向かう道ゆきでの山や川、そしてヒロインと2人で歩く海辺の景色など、コントラストを強めに当てつつ自然の風景を画面いっぱいに映して見せるこだわりが素晴らしい。またメインディッシュのドラキュラ城をタイムラプスで撮影したりなど、(本筋に直接は絡まない)画作りへの並外れたこだわりが本作の魅力だと思う。そして何と言っても童話のお姫様顔負けに美しいイザベル・アジャーニ様!!雪のように白い彼女の首筋に吸血鬼がガブリと噛みつくラストのシーンなんてほぼ濡れ場じゃん!と思ったよ。のちの主演作でモンスターと性交することになる彼女、こんなところにルーツがあったのですね。

こういう本家由来のオーソドックスな設定はしっかり踏襲しつつ、画面の美しさにオリジナリティを出してくる感じ、素敵だなあと思う。原作ファンも喜ばざるを得ない出来ですね。考えてもみれば、ウジ虫風ネズミもまたひとつの映像(美)へのこだわりであることは間違いないし、、笑。登場人物同士の、特にノスフェラトゥとヒロインの会話がシェイクスピアの戯曲みたいな掛け合いになってるのには面食らっちゃったけどね笑。「この世で最も悲惨な苦しみは愛の不在だ」みたいな感じで。どこをクラシカルにしてるんだい、と突っ込まずにはいられなかったかも。まあオリジナルにはあった「そんなに急いでも運命からは逃れられんぞ」みたいな台詞が大好きだった私としては、こういう詩みたいな掛け合い、嫌いじゃないんだけどね。

——好きな台詞
「物事に時期があることは農民でも知っている。成長を確かめるのに苗を抜きはしない」
明石です

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