すずき

魚と寝る女のすずきのレビュー・感想・評価

魚と寝る女(2000年製作の映画)
4.0
釣り人達が寝泊まりする小屋がいくつか浮かぶ湖。
周りには何もない辺鄙な場所だ。
女はそこで、小屋までの渡守と物品販売、そして身体を売る事で生計を立てている。
ある日、女は黄色の小屋に、長期滞在の男を案内する。
男は訳ありで、夜中に拳銃自殺を図ろうとしていた。
それに気づいて男の自殺を止めた女は、彼に心惹かれていく…

韓国映画の中でも特に底意地が悪い作品を数多く製作し、そして本人もクズだったキム・ギドク監督作品。
この作品も、幻惑的な映像で女と男の愛を描きつつも、露悪的でショッキングな描写が挟まれる問題作。

ストーリーも面白かったけど、どちらかというと、その詩的な雰囲気を楽しむような作品。
キャラクターの行動原理とか細かいツッコミ等は置いといた、あくまで象徴のストーリー。
ラストもはっきりと話の結末を描かず、様々な解釈が出来る幻想的なカットで締めている。

何より良かったのは、主人公の女が何も喋らない事。
彼女は声が出せないわけではないが、劇中一切の言葉を発しない。
同監督の「悪い男」もそうだけど、主人公に何も喋らせない事で逆に凄く個性が引き立つのよね。
多分、彼女は声を失い、愛も手に入らず、かといって泡にもならなかった「人魚姫」なのだろう。
潜水時間が人間離れしているし。

イエス・キリストは信者を集める事を「人間をとる漁師」と喩えたと言う。
この映画も、人が人に心惹かれていくその「引力、即ち愛(ラブ)‼︎」を、魚釣りに喩えられている。それも直接的すぎる形で。
あまりにも激痛過ぎるそのシーンに気が遠くなりそう。
女は言葉を発しないから、痛みでしか愛を伝えられない。
その不器用な愛と痛みは「TITAN チタン」を彷彿させられた。