ナガノヤスユ記

ゴーストライターのナガノヤスユ記のレビュー・感想・評価

ゴーストライター(2010年製作の映画)
4.2
波打ち際に横たわる男の骸から始まって、滴る雨水、酌み交わす酒、そこかしこに一寸先の闇、主人公を手招きするような死のイメージがこびりつく。移動手段の映画でもある。
ユアン・マクレガーは実はかなり好きな俳優なのだけど、この「英国人」ライターは絶妙なハマり役。表情で語り過ぎない上品さと、どこか間の抜けた野暮ったさの絶妙なバランス。彼が挟みこんでくるユーモアが、いちいち相手との距離感を曖昧に見せるおかげで、単なる謎解きや陰鬱なサスペンス映画には無い独特の味わいがある。

実際この映画、画面の緊張感とは裏腹に、主人公の身にはヤバいことは何も起きてない。ドラマティックな暗躍やいかにも作り物めいた悪意の操作もなく、あくまで日常的な感情のレールの上で物語が進んでいく。こちらの想像ばかりが逐一脱線を余儀なくされる。だからこそラストが残る。キマる。
今まで散々煽っといて、最後の最後に画面外で完結するあのラストショットのエモさは、多分しばらくは忘れられないでしょう。もちろんオリヴィア・ウィリアムスの妖艶さも。ピアース・ブロスナンやトム・ウィルキンソンの小賢しくて頭悪そうな感じもよかったよ。何よりあの家で働いてる使用人たちの不気味さ、あれなに、、、

とにもかくにもミステリーのスジの旨味というのは、単なる出来事の列なりや、過剰に作為的なキャラクター造形とは違う、もっとさり気なくて多層的な領域から香りたつんだってことを久々に実感させられた良質な鑑賞体験でした。