みかんぼうや

怒りの葡萄のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

怒りの葡萄(1940年製作の映画)
3.8
【アメリカ資本主義がもたらす社会格差と不条理な現実を描く、直球勝負な古典名画】

ここ最近、邦画か(しかも大半は仁義シリーズ)90年代以降の洋画ばかり見ており、一時期見まくっていたいわゆる古典洋画を全然見ていなかった中での久々の古典洋画視聴。このシンプルでどストレートなヒューマンドラマ、やはり良いです。

本作は砂塵被害で農場が駄目になり生まれ育ったオクラホマ州から追いやられることになった小作農一家の物語。夢と希望を持って一家総出でカリフォルニア州に向かい到着するも、その移民キャンプで見た厳しい現実とは・・・

本作のジャンルが“ロードムービー”であるならば、私の中のロードムービーに対する強い苦手意識を払拭する一歩となる作品かもしれない。それほどに心に染みる作品でした(ロードムービーの中では、「道」「ペーパームーン」以来に久しぶりに刺さり、余韻に浸れる作品でした)。

当時のアメリカは世情的にも、本作の家族のように本当に断腸の思いで慣れ親しんだ土地を離れ、より良い環境を目指し、アメリカの中でも最も裕福な州の一つであるカリフォルニアに夢を抱く人々は多かったのでしょう。しかし、そのうちの多くが、世界最大の経済大国に成長するアメリカの資本主義の功罪というべきか、過酷な競争の中で生じる格差と不平等性、そして理不尽さに直面して苦しむことになったのではないかと思います。

そんな中でも刑務所あがりの主人公トムが、なんとか希望を捨てず家族のために状況を打開しようと外をかけずり回る姿と、その先に待ち受ける結末、そして家族内の柱として強い精神を持ち続ける母の凛とした姿勢がなんとも印象的でした。

しかし、1940~60年代のモノクロ古典名画たちって本当に凄い。現代の映画に比べれば映像技術はもちろん劣るし、演出だってまだまだ発展途上。あっと驚かせるような特殊なギミックやアイデアが詰め込まれまくっているわけでもない。なのに、駆け引き無しの直球勝負の物語たちは、その後の60~70年の映画史の中で洗練されていった現代映画以上に胸を打たれ考えさせられる作品が多い。もちろん、今も語り継がれる古典映画たちは、この半世紀以上の長い時間を経て今なお評価される作品なわけで面白いものが多いのは当然と言えば当然なのですが、やはり映像技術や特殊な演出に頼らない、純度の高いヒューマンドラマとしての脚本の素晴らしさが心に刺さるのでしょうか。

もちろん現代映画の美しい映像や洗練された演出も大好きですが、その間に挟む古典映画視聴が、またなんとも映画鑑賞の楽しみ方の幅広さと奥深さを教えてくれるようで、そこからモノクロ古典映画を見続け始めると、今度はカラフルで美しく洗練された現代映画を欲し始め・・・2021年、このループであっという間に巣ごもり映画鑑賞生活の1年間が過ぎていきました。

今年は久しぶりに映画にどっぷり浸かった1年。1月から4月までは仕事のピークのため鑑賞量が激減しそうですが、引き続きフィルマの皆さんのレビューを頼りに、素敵な作品をたくさん見られたらいいなと思います。

それでは皆さま、よいお年を~!
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