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タロットカード殺人事件のtakのレビュー・感想・評価

タロットカード殺人事件(2006年製作の映画)
3.7
 「マッチポイント」から続くイギリス三部作の第2作である本作は、お気楽なサスペンスコメディ。主人公は、前作でウディ先生のお気に召したスカーレット・ヨハンソン演ずるジャーナリスト志望の野心家女子大生サンドラ。ある日彼女は手品師スプレンディーニことシドニー(ウディ・アレン)の舞台に飛び入りし、マジックボックスに入れられる。そこに現れた元ジャーナリスト、ジョーの幽霊が、今ロンドンで起きている連続殺人事件の犯人が大富豪の御曹司ピーター(ヒュー・ジャックマン)だと言い、ヒントを遺して消えてしまう。サンドラはシドニーの助けを借りながらピーターに近づくが、いつしか彼女はピーターと恋に落ちてしまう。果たして事件の真相は?・・・というお話。

 「マッチポイント」はそれまでのウディ・アレン作品とは思えない緊張感に満ちた映画だった。スカーレット・ヨハンソンが登場する場面は映画史上に残るカッコよさ。ヒッチコック作品を観ているような錯覚に陥ったし、風邪ひいて休んだ日に家で観てかえって熱が上がったことをよーく覚えている(こら)。本作はとにかくスカーレット・ヨハンソンを観る映画。ウディ先生が巧いのは綺麗なスカーレットを、美しく撮るだけが目的じゃないところ。グラマーな眼鏡っ娘、ふた言目には飛鳥ラングレーの様なキツい台詞、体の線が出ないような普段の服装・・・と前作とはまったく違うダサさを演出している。だからその分だけ、赤い水着でムチムチした肢体を包んだプールの場面にインパクトがある。あの場面で、御曹司ピーターも銀幕のこっち側で観ている僕らもノックアウトされてしまうのだ。

 ミステリーとしては物足りないお話ではあるが、クリスティやドイルを生んだミステリーの聖地イギリスだけに、お気楽な”ミステリーっぽさ”を楽しんで撮っている感じがいい。お年を召したウディ先生は、末期の寅さんのようにヒロインの恋のお相手にはならない。ここでは偽の父親役に徹して無鉄砲な行動をとるヒロインを見守る役割だ。だが、この映画はウディ先生が脇でおバカな役割を演じてくれるからこそ面白くできている。特にピーターへの疑惑が深まっていく後半。次々に新事実を知るシドニーは、謎の解明に迫っているのに生き生きもせず、危険に怯えることもない。ただ困った顔をするだけ。事件被害者の部屋の鍵を発見する場面の表情は何とも言えず笑えてしまう。恋で疑惑が見えなくなってしまったサンドラを守らなければならない、と懸命に車を飛ばすのだが・・・(以下略)。父と娘程(以上?)の年の差もあって、かみ合わない二人のやりとりも面白いが、「人生万歳!」ほど世代ギャップを辛辣に笑い飛ばすこともなく、ウディ・アレン映画の”毒”は控えめ。

 死に神が登場する演出は、初期ウディ・アレン作品を知る人には”彼らしい”と思わせるところ。ヒュー・ジャックマンがスーツをバチッと着こなす姿はカッコいい。そしてサンドラの友人ヴィヴィアン役でちょこっと出てくるのが、フランソワ・オゾン監督の「エンジェル」で主役を務めたロモーラ・ガライ、ピーターの父親は「007/ユア・アイズ・オンリー」の悪役ジュリアン・グローヴァーという配役も嬉しい。
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