半兵衛

風流温泉日記の半兵衛のレビュー・感想・評価

風流温泉日記(1958年製作の映画)
3.8
一見すると単なるオールスター映画だけれどグランドホテル形式の映画としての完成度が結構高く、また豪勢なキャスティングの使い方も絶妙で戦争映画で活躍している一方で社長シリーズなどの娯楽作品でのベテランでもある松林宗恵監督と娯楽映画のみならず戦争映画でも活躍した脚本家須崎勝弥の隠された実力の凄さに舌を巻く。

和歌山のとある旅館を舞台に起こる様々な人間ドラマのなかでも一日だけの偽社長を楽しむ芦屋雁之助や『花咲く港』のその後を彷彿とさせる上原謙に騙される中北千枝子、真面目な女中だが謎が多い主人公・団令子のエピソードが凝っていて楽しめるが、なかでも離れて暮らす娘・司葉子との再開を心待ちにしているベテラン女中三益愛子のエピソードが印象的。娘の新婚旅行のスケジュールがずれて会えなくなり落胆する三益が旅館に訪れた新婚旅行中の水野久美と親しくなり母親のように慕われるのが皮肉だし、水野と三益が擬似親子のような関係となり別れる場面であるものを出すことで所詮他人なんだと現実へと引き戻していく展開に唸る。

隠していた過去を知られ落胆する団令子に対し、それでも彼女を受け入れる恋人・小林桂樹の度量の広さに泣かされ彼ら二人の結末を通して現在を生きることの大切さを説く前向きなラストに心が晴れやかに。

それにしてもアプレゲールな役どころからこの映画のような真面目な女性まで多岐な役柄をこなしてしまう団令子がなかなか評価されずに1970年代に女優業を辞めてしまう(1980年代なかばに一時復帰したが)ところに役者というものの仕事の難しさを痛感する。
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