netfilms

復讐 THE REVENGE 消えない傷痕のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.4
 海辺に建てられたプレハブの前で一服する3人組に、ストッキングを被った4人組が突如襲いかかる。拳銃を数発発射した後、細い足場を辿りながら倉庫へ、白く細長いBOXを意気揚々と白いワゴンに運び込むのだった。犯人は片桐(諏訪太朗)を筆頭にした密輸団で、白いBOXの中身はハシシ・パウダーだった。たまたま計画に加担した安城伍郎(哀川翔)は仲間割れを装い、まんまと山野部組組長山野辺信一(仙波和之)を撃ち殺す。刑事の西英介(井田州彦)はこの事件をまったくのバカの仕業かそれとも確信犯の仕業だと予測する。独自にヤミ資金ルートの捜査を進めていた西は、山野辺殺人事件の捜査途中で、安城もまたヤミ資金関係者を追っていることに気付く。ヤミ資金に連なる殺人事件に関わり、そして妻を殺された安城は、その黒幕を捜しつつ復讐を続けていた。だが刑事課長(大杉漣)により安城の関係資料は抹消され、西の言葉も聞き入れられない。西は安城と接触し、検察庁の極秘書類を渡す代わりに関係者リストの作成を依頼した。山本という偽名を使い古紙回収所で働く安城は、妻殺しの背後に潜んでいた何者かを追い続けるが、そんな安城の正体を知らぬ暴力団吉岡組の吉岡組長(菅田俊)は、偶然知り合った彼をまるで親しい兄弟分のように扱っていた。やがて安城は同じアパートの貝原服飾学院生・美津子(小林千香子)から、ヤミ資金に関わった学院の資料を譲り受け、次の標的を日本流通企画元会長・小笠原(逗子とんぼ)に特定する。

 『勝手にしやがれ!!』シリーズに続く『復讐』シリーズ第二弾。前作で妻を殺された元刑事・安城の復讐はまだ終わらない。前作『運命の訪問者』では「復讐」という言葉の意味が二重にかかっていた。それは安城の家族を皆殺しにした男たちへの復讐と、妻を殺した者たちへの復讐である。今作では山本という偽名を使い、古紙回収所で下元史朗の下で働く安城は、妻殺しの背後に潜んでいた何者かを追い続けている。前半はチンピラたちを利用し、ターゲットでプロの殺し屋であるヤクザを殺す。まるでスパイ映画の主人公のような活躍ぶりで次々と計画を実行し、警察を撹乱する。けれどその明瞭に見えた物語の行方が、暴力団吉岡組の組長の吉岡の出現から少しずつ見えなくなる。安城は山本という偽名を使っているが、吉岡組の軍門に下ったわけではない。その証拠に、安城に対する吉岡の態度は、他の吉岡組の構成員たちとは明らかに違っている。安城はどうして吉岡に可愛がられているのか?安城はどのように吉岡を利用しようとしているのか?それがまったくわからないまま、物語は進む。安城と吉岡は「ここではないどこか」へと旅に出ようとする。黒沢清の映画にとって、車に乗ってどこかへ行くということは逃れられない運命に足を踏み入れることになる。復讐という主題を本線だとすれば、そことは完全に切り離された吉岡との友情を這わせる展開は心底狂っているとしか思えない。安城に注射針をプレゼントした吉岡は、歌を歌いながらゆっくりとギアを上げる。対向車線からすれ違う車はない。朝比奈温泉への道中、シャブ中の吉岡が運転する車は一向に温泉へと辿り着くことはない。仕方なく森の中に停車し、中央の桜の木に当てたら1万円の賭けをし、石を投げ合うという遊戯性にかられた2人の友情の行方も一向に霧が晴れることはない。国士会総本部の高木の引き抜きは吉岡を追い詰め、彼の目を逃れた安城は再び車を走らせる。90年代の黒沢屈指の不条理劇である。
netfilms

netfilms