レオピン

ペリカン文書のレオピンのレビュー・感想・評価

ペリカン文書(1993年製作の映画)
3.7
94年春日本公開
アラン・J・パクラらしい静かで落ち着いたトーンのポリティカルサスペンス。

合衆国最高裁判所の判事2名が何者かに殺された。政治的には一見立場が別れていた二人の判事。この二人の共通点にロースクールの女子大生がいち早く気づく。実は二人とも環境保護活動に熱心だった。

ダービー・ショーは一人公文書館通いをしてそれを「ペリカン文書」というタイトルのレポートにまとめる。仕事が早い。だがここではまだ文書の実態は明かされない。序盤はこの女学生とアル中教授との恋愛、そして陰惨な殺し屋の仕事を同時にみせられる。

レポートはキャラハン先生の手から旧友のFBI法律顧問ヴァーヒークへ。そしてFBI長官から大統領府へと移っていく。アラアラ不吉な予感。そしてちょうど序盤35分でキャラハンの爆殺。自動車爆弾。ここから第2幕へ。

爆殺現場に現れた怪しい男はルーパートと名乗ったがそのような人物は警察にはいなかった。身の危険を瞬時に察知し、姿を隠すダービー。ニューオーリンズの町はお祭り。人混みを利用しようというのか、この辺り一々主人公の行動が賢い。バカではヒロインは務まらない。

中盤はワシントン・ヘラルド(架空の新聞社)のスター記者、グランサムが中心。彼の元に、ガルシアと名乗る男からタレコミ電話があった。

1h08 ここまできて、いわばお話のセッティングが終わってようやくダービーとグランサム記者が対面する。
なぜ俺を選んだ
彼がファンだったからよ

いよいよ「ペリカン文書」って何?ともう喰い気味で画面をにらみつけていたが、なんだかはぐらかされてしまったような。肝心の話が、説明するわフワフワフワって時間が過ぎるマンガの手法だった。『LOOPER/ルーパー』のタイムトラベルの説明と同じくらいのおざなり感があったが、まぁいいだろう。

殺し屋は外国から雇ったようだが、この殺手カーメル(スタンリー・トゥッチ)が中々雰囲気ある男でポルノ映画館で腰の紐ベルトで首を絞めるといったところなど忘れがたい。結局彼はダービー殺害の目前で狙撃されるが、裏でダービーを助けたCIA要員とかの説明も特にない。補佐官対CIA、ホワイトハウス内の権力の暗闘みたいなものは匂わせるだけで台詞にすら出てこなかった。

大体、この企みに大統領自身やホワイトハウスがどこまで関係していたのか。補佐官はどこまで絡んでいたのか。一番の黒幕とされる大口献金者の人物も名前だけでまったく出てこない。

なのに、だのに、きちんと観れる。派手さはないが高い演出力。まだこの時代までは10分に一回の爆発なんかなくても十分に映画は観れたのだ。ある意味で観客の集中力が見込まれていた。今やそこは確実に不感症になっている気がする。

多分この映画見終わってから、でペリカン文書ってなんだったのよって会話をしたカップルは全世界で5億人くらいいたと思うが、正直どうだっていいのだ。ペリカン文書自体がマクガフィンだ。VHSテープと一緒に入ったあのマニラ封筒に世界を揺るがすものが入っていたなどと誰が信じよう。

ストーリーラインに粗があったって観れるものは観れる。今は制作側が細かいことを一々気にしすぎだ。

正直言って、ワシントンD.C.や新聞記者たちの描き方等々は『大統領の陰謀』の足もとにも及ばない。でもいくつかいい画はあった。カーメルの狙撃シーンの空撮、思えば登場も空撮だった。あとワシントンのモニュメントで追っ手のエージェント達が結集しているところでの望遠の画。何のセリフもないがこの人たちも立派な公務員なんだなと思わせる。逆の立場に立てば汚れ仕事をさせられる彼らに同情してしまう。

ジョン・グリシャムってなぜこの時代あんなに売れたのだろう。
この原作でここまでの作品を撮りあげたパクラの手腕。ルメットもそうだったが社会派とされている監督たちはメッセージ性以上に幅広く訴えかける確かな腕をもっている。まあ職人ってことなんだろうな。

公開から4半世紀経っていることにはもはや何も驚かない。だってどう考えても記憶に残る作品ではないんだもの。でも十分に楽しめる。90年代のこの辺の作品には代えがたい魅力がある。

何よりも魅力的なスター
ジュリア・ロバーツ 26歳
デンゼル・ワシントン 39歳

ラスト、一度離れてからの再び抱擁するお別れ。他の偉大な作品と変わらない黄金の瞬間。
そして2時間強たってはじめて満面の笑顔をみせるジュリア・ロバーツはなによりもかわいかった。
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