ナガノヤスユ記

獣人のナガノヤスユ記のレビュー・感想・評価

獣人(1938年製作の映画)
4.2
身ひとつで線路の暗闇を進むジャン・ギャバン、混乱したまま死に向かう人間の姿そのものでたまらない。
冒頭のテロップはいかにも原作ものっぽい野暮ったさが感じられるし、列車のシークエンスは明らかに長すぎるのだけど、そういうバランスの歪さを補って余りある、というかむしろそういったディテールの鈍重ささえ、本作のノワールとしての異質さを際立たせてる。
この作品にもいわゆるファム・ファタルのような存在はあるけど、物語の主導権は常にジャン・ギャバン演じる主人公にあり、彼女が本当の意味で主人公を脅かしたことはない。圧倒的に彼の中の悲劇と暴力性がこの物語の主役であって、そういう意味ではロマンスのパートになってもまるでトキメキはない。
序盤と終盤、主人公の暴力性が発現されるシーン、引き画の相似。決定的な殺しのショットはラブシーンと似ている。
ラスト含め物語全体に漂う哀しさの演出、危ういヒロイズム、1938年という時代を考える。ここから世の中は進んだのか、退化したのか。