マーくんパパ

善き人のためのソナタのマーくんパパのレビュー・感想・評価

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
4.4
滅茶苦茶ハマった感動作。
1984年東西分断中の東ベルリン、反国家思想家たちを摘発することが当然の正義であり愛国心だと思っている国家保安省(悪名高き別名シュタージ)ヴィースラー大尉。狙いを定めた人間は容赦なく極限まで尋問で追い込み落とすプロ。人気劇作家ドライマンの隠れた反体制的思想を暴く為に自宅に盗聴器を張り巡らし24 時間体制で監視の任務につく。作家と同棲している人気女優クリスタとの全ての生活を覗き、克明に会話をタイプで報告する毎日。上司のグルビッツ部長は保身と出世欲の俗物、権力を盾にお気に入りのクリスタを脅して愛人にしようとする横暴な所管大臣へムプス。身体を汚されて帰って来たクリスタを見て何が起こったか悟りながら優しく寄り添うドライマンが奏でるピアノソナタの哀しい響き。そんな毎日を盗み聴きしている大尉に体制への矛盾が生じ気持ちが変化していく過程の描写が素晴らしい。苦悩のうちに首吊り自殺したドライマンが敬愛する演出家イェルスカの愛読した本を盗み出して読んだり、張り詰めた任務の合間に売春婦との短い無味乾燥な性欲発散をする日々の自分、今の国家が世界の正義と信じ切っていた忠誠心と束縛のない世界を目指す彼らの理想との相違に心揺れていく大尉は見聞きした事を報告しなくなる。そんな中、ドライマンは西側への匿名告発レポートを自宅で書き上げ発表する。体制側の大失態、犯人探しに躍起となる大臣や部長たち、恋人クリスタを過酷な尋問にかけ証拠となるタイプライターの隠し場所を吐かせドライマンの自宅を家宅捜索するが証拠品は消えていた。捜索直後愛する人を裏切った自責の念に囚われたクリスタは家を飛び出し車に跳ねられ死んでしまう。大尉は降格し暗い倉庫の中で手紙の開封作業の窓際業務に。それから5年後ベルリンの壁は崩壊し東ベルリンも自由の国となる。情報公開の中でドライマンは自分が受けていた圧倒的な監視情報に驚くと共に見張りをしていたコードネーム:HGW XX/7の存在と消えていたタイプライターに救われた謎が解ける。店頭に並ぶドライマンのベストセラー本「善き人のためのソナタ」の巻頭には〝HGW XX/7に捧げる〟との謎の一句が入っていた。
旧東ドイツの政治弾圧の実態と迫害される市井の芸術家たちの生々しい様子が「監視する人される人」「検挙されるかされないか」「任務への裏切りが露見するかしないか」と様々な角度のサスペンス要素を織り込んで時間を忘れる超一級品の映画に仕上がっていました。ふ