(2024.89)
知り合い同士の三家族で休暇を利用して浜辺のコテージに遊びに行くことになり、企画者であるセピデー(ゴルシフテ・ファラハニ)は、旅行のついでに友人であり最近離婚したばかりのアーマドに娘の保育園の先生であるエリを紹介することを思いつき、二人も追加で同行させる。心優しいアーマドとエリはそれなりに良い仲になるが、周りのお節介が度を越した結果あるトラブルが発生してしまい……というお話。
ファルハーディー監督作品では大体大人がしかめ面をして喧嘩ばかりしてるイメージだが、今作では冒頭からかなり楽しげな雰囲気。これは一味違うのかも……と思いきや、あれよあれよと言う間に結局険悪な雰囲気になってしまうのがちょっと面白かった。
話の中心となる事件が起こる要因は、悪意とかではなくて周囲の人間の無神経・無関心によるものであり、仲良し家族だと思っていた人々が一つの事件にをきっかけに、一皮剥いてみたら途端に罪をなすりつけ合うような関係になってしまうのが怖いところ。これまでの関係性が崩壊するような大喧嘩に発展するわけではなく、議論の中でその人の本心が垣間見えてしまう、じわじわと不信感が募っていくのが何とも厭な感じ。
また、ことの発端はイランという国の男女観にあるとも言えて、未婚の男女への強迫的な結婚の押し付けに、結婚もしくは婚約した女性への異様な貞操観念の厳しさなどが“言いたいけど言えない”という締め付けに繋がり、コミュニケーションが破綻してしまう。そう明言されるわけでは無いが、そういうお国柄に対しても懐疑的なメッセージを投げかけているように思えた。
決して楽しい話ではないが、ある事件を軸に変わりゆく人達の関係性を、極端に戯画化するわけでもなく、とは言え適度にスリリングに見せてくれるストーリーテリングの上手さはこの頃から健在で、監督作の中でも特に前のめりになって観ることができた。舞台がほぼ一ヶ所の浜辺のみというコンパクトさもシンプルで良かった。