Mikiyoshi1986

狼たちの午後のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

狼たちの午後(1975年製作の映画)
4.5
3月12日は42歳の若さで死去したアメリカの名優ジョン・カザールの命日。
今日で没後40年を迎えます。

彼の出演作は尽くアカデミー賞に輝くという、驚異の審美眼と天才的演技力を持ち合わせていたカザール!

アル・パチーノ出演作『ゴッドファーザー』の共演で名声を得たカザールは、
盟友アル・パチーノの推薦により『セルピコ』を撮ったシドニー・ルメット監督の作品で再び共演を果たします。
それが実際の銀行強盗事件を元に、奇妙な人質立て籠り劇を展開させた『Dog Day Afternoon』

酷暑で熱を帯びたアメリカのとある銀行を舞台に、強盗犯のパチーノとカザールが不慣れにも人質をとり籠城するシナリオは、さながらコメディ劇のようでもあります。

しかし脚本を手掛けたフランク・ピアソンは既存の事件に事実以上の物語を巧妙に添加させ、
ここにとてつもなく秀逸な社会派ドラマを完成させてしまいました。

失業したゲイの元銀行員と、ベトナム帰還兵の元囚人が立て籠った銀行では、
黒人の守衛、雇われ支店長、行員の女性たちが人質にとられ、
その周辺を警察と野次馬が取り囲みます。

その空間にはまるでアメリカ社会の縮図であるかのように社会的弱者が結集し、実際に彼らはある種の奇妙な連帯感と思いやりで結ばれていきます。

強い偏見の目に曝されていた同性愛者、
国に使い捨てられたベトナム帰還兵、
如何なる場合でも常に差別の対象にされる黒人、
低迷したアメリカ経済を象徴する名ばかり支店長、
そしてウーマンリブ以前の、性差に苦しめられている女性たち。

彼らはこの極限的な状況で一見すれば抑圧されているようにも見えますが、
実際は「人質」となったことで、逆説的に一時の「解放」を満喫しているとも云えるのです。

そして彼らは警察という粗暴な国家権力に対し、自らの国外逃亡を求めます。
とにかく我々は、もうこんなアメリカにはいたくはないのだ!と。
そしてそれを面白半分で囃し立てる群衆の姿。

本作の導入部では守衛の黒人がアメリカ星条旗を引き下ろすシーンから物語がスタートするわけですが、
既にこの時点で、本作は一体どういう物語であるのかを雄弁に語った演出にもなっているのです。

終始魅せつけるアル・パチーノ迫真の演技は本当に白眉モノですが、
その陰に隠れながらも寡黙に、鬼気迫る演技をこなすジョン・カザールもこれまた素晴らしい助演ぶりを発揮!
また、自らの死期を予言するかのようなセリフも一層胸に響きます…。

2017年度のアカデミー賞作品にはまさしく本作に込められたようなメッセージが数多く見受けられるわけですが、
一方で『狼たちの午後』が公開されて40年以上が経過しても尚、そうした問題がなかなか解消されていないことに今一度アメリカ社会の根深さを認識させられるのです。
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