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欲望という名の電車のakrutmのレビュー・感想・評価

欲望という名の電車(1951年製作の映画)
3.9
上流階級の家系ながらも一文無しになって故郷を離れ、南部のニューオーリンズで夫と暮らす妹の家に居候する未亡人の女性ブランチが、新たな出会いを希望を託しながらも、妹の夫スタンリーと対立する様子やその顛末を描いた、エリア・カザン監督のドラマ映画。1947年にブロードウェイで初演されたテネシー・ウィリアムズの戯曲の映画化である。

映画で描かれているストーリーを表面的に見る限りでは、スタンリーに同情してしまう。いきなりやって来てそのままなし崩し的に住み込んでしまうのにも関わらず、相変わらず上流階級気分が抜けずに、上から目線で接するのだから。

でも、この映画(戯曲)の時代背景を考えると、ブランチはアメリカ南部の没落を象徴する存在であることが分かる。以前は多くの黒人労働者を奴隷として重労働に従事させることで上流階級の人々は優雅な暮らしをしていたわけだが、そんな時代は過去のものになりつつあるという状況が、ブランチの精神的な不安定さに反映されている。一方で、ポーランドからの移民の家系で労働者階級のスタンリーの言動には、そんな上流階級の没落の象徴であるブランチに対して蔑みや嘲りが潜んでいることも見逃せない。そう考えると、悲惨な結末を迎える彼女への同情も禁じ得ないのである。そうすると、ブランチの妹ステラがどちらの側に付くかということも見逃せないポイントになる。そんなことを考えながら、もう一度観賞してみたくなる映画である。

ただひとつだけ残念なのは、原作の戯曲の特徴である、同性愛やレイプなどの当時としては過激な描写が、テネシー・ウィリアムズの反発にも関わらずヘイズ・コードのためにぼやかされてしまった点である。そのため、本作はやや起伏に乏しいのっぺりとした内容になっている。

本作で(舞台でも)スタンリーを演じたマーロン・ブランドにとっては、本作が出世作となる。確かに、粗暴な言動だけではない微妙なニュアンスまでも暗示させるような演技は素晴らしく、若い頃の彼を知らない自分にとっては新鮮であった。ブランチを演じたヴィヴィアン・リーのいかにも演技している演技に対して、スタニスラフスキーの演技理論を学んだマーロン・ブランドの素で行くような自然な演技が印象的でもある。なお、妹ステラとスタンリーの親友ミッチを演じたキム・ハンターとカール・マルデンも舞台でも同役を演じており、主演女優賞のヴィヴィアン・リーとともに、アカデミー賞で助演男優賞・助演女優賞を受賞している。残念ながら、マーロン・ブランドだけはノミネートされながらも主演男優賞を逃している。
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