りっく

宇宙人ポールのりっくのレビュー・感想・評価

宇宙人ポール(2011年製作の映画)
3.8
「エイリアン(alien)」には、「宇宙人」「外国人」という2つの意味がある。本作の主演であるサイモン・ペッグとニック・フロストはイギリス人である。彼らは「エイリアン」の視点からアメリカという外国を見つめている。アメリカの持つ陽気なイメージを宇宙人ポールに、不気味なイメージを現地人にそれぞれ託しているのが面白い。

イギリス出身の「エイリアン」たちは、いわゆるオタクである。本作の中でも描かれるが、彼らは女に奥手で、友情以上の親密な関係を疑われるようなイメージが世間にはあるのかもしれない。けれども、何かにとことん愛情や人生を注ぎまくる人間は、見ているだけでホントに楽しい。初めて憧れの地・アメリカに降り立っているウキウキ感。彼らにとっての聖地巡礼をしている際のはしゃぎ様。テンションの上がり下がりや、ディープなネタ満載の会話を聞いているだけで、こちらにもその幸福感が伝播し、思わず顔がほころんでしまう。

一方、「エイリアン」であるポールは、宇宙人に貼られた“神聖”で“不気味”な存在であるというレッテルを嬉々としてはがしていく。姿くらまし、治癒能力、テレパシーという特殊能力はあるものの、中身はどう見ても気のいいアメリカ人のオッサンだ。地球に長年閉じ込められていたことでアメリカナイズされ、“アメリカ人らしいアメリカ人”が出来上がってしまったのだ。

そんな3人の「エイリアン」を追うのがアメリカ人である。それは狂信的なキリスト原理主義者であり、カップルのようなオタクを排除しようとする白人である。彼らもまた“アメリカ人らしいアメリカ人”と言えるのかもしれない。

そんなイギリス出身の「エイリアン」と、アメリカナイズされた「エイリアン」と、不気味なアメリカンが入り乱れたドタバタ珍道中。この混沌とした世界こそが、様々な人種や文化が入り乱れた国・アメリカなのかもしれない。
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