三畳

私の夜はあなたの昼より美しいの三畳のレビュー・感想・評価

4.5
シルバーグローブで強烈に印象に残ったズラウスキー監督。ポーランド人の映画はツボにはまる気がしてClipしてるのもたくさんある!

失語症は言葉を完全に話せなくなるのではなく、むしろよく喋るタイプもいるらしい。字幕を追っているとわかりにくいけど、耳で聞ければ意味か音で言葉を繋いでいることに2周目で気付く。

一部拾ってみた。最初から最後まで主人公リュカの台詞はこんな感じ
字幕「海 いい香り 愛 におい 作者 自分の不幸 孤独を招いた者 不安 いらだち ぞっとする うんざり 絹のスカーフ 部屋着 春の原 音楽 彼女の登場 すべてが俗悪 彼女は俗悪じゃない 一体どうする? 無秩序 混乱 手がかりの消失 秩序や明晰さと反対の事をしなくては」

歌のような戯曲のような。
この一行目を翻訳すると
Mer /bonne odeur /Amour /odeur /Auteur /Malheur /solitaire /Anxiété /irritation
となり(直訳で間違っているのもあるかもしれないけど)韻を踏みまくってる。
これを言いながら秩序に対抗するためスイートルームの家具を重ねまくる。詩が行動を先導するから一見支離滅裂。

独り言でも、他人と喋っていてもこのリズムで、
まるで脳内にばらばらにはじけ飛んだビーズの首飾りを、地面に這って針で掬いながら必死に紡ぎなおしているみたいな、
その糸の先も結んでないから常に吐き出されるみたいな、
壊れたコンピューターのようだけど大変感情的なのでロボットではない、唯一無二の世界観に魅了された。
ボイス・オブ・ムーンのロベルト・ベニーニをさらに細刻みに破綻させたよう。

(リュカはコンピューター言語の開発者であることからも、計算に対して導き出される答を返すことに誠実であろうとする(半分くらいは言葉遊びでけむにまいているように見える)けど、よっぽど健常な人々の応答の方が破綻している。)


対照的にヒロインのブランシュはもう登場時から「言いたいことが言えない」「どうしたらいいかわからない」と話すが、彼女は気持ちを痛烈に何度も訴えている。
しかしハゲタカのようなとりまきの人間達が一切とりあってくれないので、言葉が無力化させられていて、見るからに限界突破している。すぐにはらはらと泣き出してしまう。

預言者としてカジノで運命を言い当てるショーをしているのだが、その能力にアクセスする際に子どもの頃のトラウマ場面(原体験?)を通らなければならないので、精神が過労死寸前。

リュカも、お風呂や海など水辺にまつわる場面では、幼少期に両親が水死したシーンが呼び覚まされる。
ブランシュが疲弊して家に帰ると、ベッドにはホモの夫と裸の男が転がっている。リュカの家もまた別の理由で裸の女が平然と歩いている点で、共通している。2人は子供時代で時が止まっているのかなと思った。


商業主義と色欲にまみれた俗世の表現は、ブランシュのとりまきの描写だけで事足りる。雑誌に掲載された記事は嘘ばかり。プロデューサーや実親や衣装係が必要以上にせわしく彼女の周りをうろついているけど、誰も彼女の話を聞いていない。
ホモもレズもいてそこら中でセックスが展開されるし、常に踊ってる奴や覚せい剤を吸ってるやつが地獄絵図のようにひしめきあっている。これがすさまじく面白い(笑)

リュカは真っ白なスーツを着ていて、いつも半裸または裸足。
ブランシュはステージ衣装こそキラキラのアラビア風だけど、私服は真っ黒+サングラス。それを脱がせると真っ白な肌が。これも昼と夜にかけてるのかもしれない。2人が出会った瞬間、日食かサングラスのせいで真っ暗になり、ラストは真夜中のシーンから逆に急に朝がくる。


他にも小人症のベルボーイや、肌身離さず持ち歩いていたウサギのぬいぐるみが等身大サイズで突如出現したり、そこそこ大きい生きたカニ2匹をブラジャーにしようとしたり、「口に物を入れてしゃべるな」と没収した彼女のガムを噛んだ後で2日後に返したり、シュール・幻想的・詩的な見どころ満載の映画だった。
三畳

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