道人

パンズ・ラビリンスの道人のレビュー・感想・評価

パンズ・ラビリンス(2006年製作の映画)
3.0
【2013.12.22 TV観賞(字幕)】

 録画していた『パンズ・ラビリンス』を見る。…なるほど、デル・トロを殴りたく…は思ったよりならなかった(笑)。少女がひどい目に合う映画でもあるんですが、デル・トロ監督、きっとすごい澄んだ瞳で撮ってたんじゃなかろうか。ダーク・ファンタジーなんだけど何だかとても純粋な感じの映画でした。

 冒頭のオフェリアが欠けた眼をはめてあげる石像からいって、もう触れちゃいけないモノ感ビンビンなんですが、全体的に不穏な雰囲気がしんしんと降り積もっていく映画で、これが少女の感じている空気なのか、と思うといたたまれないですな。ファンタジーの世界も逃げ場にはなりえなかった。

 内戦期に生きた少女の悲劇的な結末。でも、デル・トロ監督がすごい愛情を注いで撮っているからか、不思議と嫌な感じはしないです。私が冷酷な人間だからかもしれませんが(笑)、ハッピーエンドな気すらする。地底の王国は確かにあったんだ。あの今際の際の笑みはそう確信したくなる美しさでした。

 あとはカピターン殿が強烈でしたね。吃音のゲリラ捕虜をいたぶるシーン(1,2,3を詰まらずに言えたら…の条とか、「ありふれた道具」の使い方とか)、「ああ、こいつはゲリラ殲滅のスペシャリストだな」という感じの存在感。父の遺品である時計を常に手にしているというのも、いい。

 その悪魔的なビダル大尉に負けない二人の大人、メルセデス(「豚は死ね!」が強烈)とDr.フェレイロが良かったです。特にフェレイロ、撃たれると分かって決然と背中を見せて歩みだすシーンが最高に良かった。劇中で一番印象に残るシーンかも。

 ファンタジー方面では、昆虫が妖精に変わるシーン、ポワワーン☆って感じの光に包まれての変身ではなく、骨格が変わる感じのグチャリグチャリな感じの変身なのが素敵にキモい(笑)。あと、パンがどう見ても魔女と夜な夜なサバトを開いているような悪魔にしか見えない(笑)。

 あの試練のシーンで、あれだけ聡明なオフェリアがどうして葡萄を二粒食べちゃったのか気になってるんですが…健気に庇う妖精が「手の眼」の化物(最高に気持ち悪くて怖い)に食べられちゃうのでとても後味悪くて…あの試練に打ち勝っていたら、オフェリアの「物語」はどうなっていたのか。

 デル・トロ監督、自分が見たのは『バシフィック・リム』以外だと『ブレイド2』や『ヘルボーイ』だけだったので、「アメコミ原作を最高に楽しんで自分の趣味の色に染める監督」という印象だったのですが、『パンズ・ラビリンス』を見て、クトゥルフものの監督を熱望する声があるのにも頷けました。

 少女の描き方がとても私好みだったので(美しさや愛らしさだけでなく、特有の不気味さ、不安定さ、不機嫌さも素敵に描いてくれる)、また少女が主人公の映画を撮ってくれないかなぁ、デル・トロ監督。それこそ『不思議の国のアリス』なんて撮ったら最高にはまる監督なんじゃなかろうか。
 
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