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オフサイド・ガールズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

オフサイド・ガールズ(2006年製作の映画)
3.9
 映画は2006年サッカーW杯に向けた最終予選を舞台にしている。スタジアムに向かうサポーターを乗せたバスの中に、男装した女性が紛れ込んでいる。イランでは、サッカーに限らず全てのスタジアムで行われる運動競技の観戦は法律で禁じられている。そもそもイランに限らず、イスラム教国家では女性の立場は低く、様々な制限が課されているのである。学生だけは例外として、一般的な20歳以上の女性はとりあえず夫の許可が要るし、人前で肌を見せるのは厳禁で、常に女性たちは正装を課されてしまう。このことの不自由さと真っ向から向き合ったのが前々作『チャドルと生きる』だった。チャドルとは人前で肌を見せないための正装であり、それ自体がドレスコードである。彼女たちは警察の目から逃れるために常にチャドルを携帯し、どこに行くにでもチャドルの携帯が不可避な事態に直面していた。今作では、法律で禁じられているサッカー観戦禁止という信じられない悪法を、女性たちが自力で突破しようとする姿を描いている。男性に見える帽子を被り、イラン国旗の3色である赤・緑・白のペイントを施しながら、サッカーW杯最終予選最後の本戦に出場出来るかどうかの大一番を観戦しようとする。10万人を越える大観衆の中で、彼女たちのようなアイデアで強行突破しようとした女の子たちはきっと多いが不幸にも彼女たちはそれぞれの理由で警備員に見つかり、逮捕されスタジアム観戦寸前で拘留される。

 物語は冒頭、シモ・モバラク・シャヒという1人の少女に付いていくが、別段この少女が主人公だということではない。男勝りでタバコを吸う少女や、途中小便を我慢出来なくなった少女や兵隊のコスプレをした少女まで、パナヒは誰が主人公で誰が脇役であると決めずに、均等に扱っている。この事自体がパナヒの作家性であり、吟持なのである。今作では前々作『チャドルと生きる』から更に居直り、女性たちは一切のチャドルを付けていない。それどころか彼女たちは男性ソックリの出で立ちで、男性兵士に対して挑発的な態度を取り続ける。このことがイランの現体制にとって、どれほどショッキングな事実であったかは想像に難くない。兵隊の静止を無視してタバコを吸う少女や、男性トイレから兵隊の隙を付いて逃げ出す少女の姿は、『チャドルと生きる』において悲劇的な振る舞いを見せた少女たちとは随分違う力強い少女たちの抵抗を高らかに宣言している。確かに彼女たちはサッカー観戦寸前に絡めとられた逮捕者なのだが、どの男性兵士よりも勇ましく、誰一人として自分たちの行動を悔いたり恥じたりしていない。このことはクライマックスの護送車の中に至るまで終始一貫している。映画の中で男性と女性の地位はあたかも逆転しているかのように、幾分ユーモラスな性質を持ちながらやがてあの美しいクライマックス・シーンへと向かっていく。
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