レオピン

カンバセーション…盗聴…のレオピンのレビュー・感想・評価

カンバセーション…盗聴…(1973年製作の映画)
4.5
ジャックターホテル 3時 773号室

カンバセーションの後ろに「…盗聴…」とつけてしまった邦題のセンス。この両脇の三点リーダに、ライフルに模したショットガンマイクの距離と、人の会話に聞き耳立てるやましさが詰まっている。笑 ああポスター欲しい

冒頭の録音に続いてもくもく作業の音声解析。台詞がなくても行動でキャラクターを示すという見事すぎる脚本。
主人公ハリー・コウルの几帳面さ 片付いた部屋 身なり。彼の唯一つの慰めは部屋で独りサックスを吹くこと。

延々テープを巻き戻してノイズリダクション的な作業をしている。音を加えたり速度をいじったりして聞き取れる音に変えていく。これらの技術は当時の最先端のもの。
映画制作中の72年にウォーターゲート事件が発生。「配管工」を仕向けた大統領は失脚した。盗聴は権力者が使うもっとも古典的でまた禁断の技術の一つ。ハリーはその腕から政府がらみの依頼も受けているような男。なのに少々ナイーブ過ぎないか。

かつて自分の仕事が原因で人の命が失われてしまった。以来これは仕事なんだと自らに言い聞かせることでかろうじて自我を保てている。だが、

本当はもうやめたい

既に色々とほころびが見えている。自宅はドアに3つの鍵をかけ鉄壁の城に見えて大家は勝手に出入りできるよう。個人情報にも人一倍気を使っているのに一番大事な誕生日がダダ漏れだ。本当に業界一の腕なのか。

ただ一人の助手スタンにもささいな事で当たり散らし、たった一人の心を寄せている女性に対しても心を開け放つことができない。個人的なことを一切誰とも共有しない人間が社会生活を送れるのか? いやでも送れちゃうのが現代社会か。

夢の中でターゲットの女性に胸の内を打ち明ける。自分の幼少時代のことから何から何まで。だが届かない。聞いて欲しい・・・

あの時ターゲットの女性に恋していたのか? 盗聴を通じて恋心を抱いてしまうってのはよくありがち。さざ波のように繰り返す会話が狂わせる。いずれにせよもう危険水域だ

固い砦を築いているように思っているのは本人だけで、実は分かりやすく隙だらけで不安定。距離をとって人間の生活を眺めているだけの人間が、真実を追い求めてみるが結果一人相撲に終わる。

ハリーがまとうあの向こうが透けて見えるくらいの薄いコート(今の時代のパッカブルコートなんていういいもんではない、百均に近い)。人恋しさ もっと距離を縮めたいという表れだ。あのピアノサントラを聞くと、透明おじさんの悲哀に泣きたくなってしまう。頑張ろう。

⇒ドニ・ヴィルヌーヴ監督の「複製された男」の冷たいビル ホテル 天井 に影響を感じる。ハリー・コウルの Caul カウルは「クモの巣」「膜」

⇒編集、音響:ウォルター・マーチ 音楽:デヴィッド・シャイア

⇒ヘッセ「荒野のおおかみ」

⇒孤独中年もの映画ベスト級 『her/世界でひとつの彼女』(‘13)、etc.
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