みかんぼうや

流れるのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

流れる(1956年製作の映画)
3.5
本作で4本目となる成瀬巳喜男監督作品。昭和女性の毎日を一生懸命に生きる力強さとはかなさを感じる本作。田中絹代、高峰秀子、山田五十鈴、杉村春子という超豪華女優陣の演技を通じて昭和の芸者置屋で行われる人情劇に引き込んでくれるものの、個人的にはフィルマ平均スコア4.0ほどの面白さや刺さるものはなかったのが率直な感想です。

物語は、とある経営に苦しむ芸者置屋に夫と子供を亡くした一人の女性が女中として住み込み始めるところから始まります。何か大きな出来事が起こるわけではなく、苦しい経営ながらなんとか切り盛りする女主人やその娘、そこで働く芸者や女中など、一人ひとりの女性たちが今を生きる姿を淡々と描いていく、ある種の女性群像劇と言っても良いのかもしれません。

上記の通り、分かりやすくはっきりとしたストーリー展開があるわけではなく、この日々を生きる女性たちの姿そのものが本作の魅力ですから、この登場人物たちにどれだけ惹きつけられるかが、そのまま本作の評価になるのだと思います。

その点から言うと、芸者にあまり馴染みなく、「東京物語」のような時代を越えた普遍性のようなものも掴み切れず、男性の私には(という表現もこの時代に微妙かもしれませんが)当時の女性たちの心情に踏み込んで感情移入することもできず、先に観た同監督の「浮雲」や「めし」ほど惹かれるものはありませんでした。

とはいえ、あまり馴染みのない芸者置屋の日常の生々しい会話のやりとりはどこか小気味よさもあり面白く、当時の風情を感じる作品全体の雰囲気は好みで、昭和人情劇として十分楽しむことができました。
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