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しとやかな獣のmajiziのレビュー・感想・評価

しとやかな獣(1962年製作の映画)
5.0
ここここわ〜!!!

森田芳光監督が80年代を「家族ゲーム」で描いたその約20年前に、こんなブラックでエゲツない戦後の日本があったとは。

家族ゲームと同じく、4人家族が住む団地が舞台。でも60年代の団地なら最先端な設定かな?
元軍人の父親は、戦後間もない時代の貧しかった経験を忌み嫌い、息子に勤め先のお金を横領させるわ娘には作家の妾をやらせているわ、なかなか狂っております。でも他人のお金を巻き上げて生活していることに家族は誰一人として悪びれていない!

題名の通り、登場人物の特に女性陣の言葉遣いは今の私たちから見るとあからさまに美しい。しかし男性含めてみんな凄まじく下品で我欲にまみれた人間ばかりで、戦後日本の精神的支柱が拝金主義一本と成り果てたのかがよくわかる。

ほぼ団地の部屋と階段しか映らない世界。狭い空間をうまく使って視点を作り出し、そして作品の導入や場面転換に流れる能の音楽と意識的な光源。すごく舞台的。

時々団地の階段が、異次元のごとく白く長くなり登場人物の入れ替わりや独白に使われるシーンも面白い。

全員の道徳心が壊れている破茶滅茶ストーリーと、人間の業の深さは闇しか感じないのに、こんな描き方するなんてそのセンスに脱帽。めちゃくちゃ面白かった。

そして何よりも若尾文子様の美しさ。
開き直りというか、我欲のみで生き抜くことへの抵抗感が全く無いって最高に醜いのに、品まで漂わせているから始末に置けない…。
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