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世界の中心で、愛をさけぶのdm10foreverのレビュー・感想・評価

世界の中心で、愛をさけぶ(2004年製作の映画)
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【ただひたすら・・・個人的に時期が悪かった】

前々から気になっていて、公開したら観に行こうねと妻と約束していた映画だった。原作も話題となっていたし、何よりラブストーリーを二人で観にいけるくらい初々しい感じの夫婦だったなぁ・・・と遠い目をしてみたりする。
 
・・・実はこの頃、僕の母が病気で入院していた。

病名は「急性骨髄性白血病」

もともと貧血気味ではあったけど「最近目眩が酷いんだよね・・・」なんて言ってたから心配して、一緒にかかりつけの耳鼻科に行ったら先生は「・・・!!」となり、至急血液内科のある大きな病院へ行ってくださいとだけ言われ、少し離れたところにある基幹病院へ。
 直ぐに採血が行なわれ、結果が出て診察室へ通された。
「悪性の貧血です。直ぐに入院の準備をして下さい」と先生。
ところが30年以上看護師をやっている母は直感でわかった様子。
「・・・先生。覚悟は出来ています。はっきり言っていいですよ。さっきの病院でもらった数値見れば大体の予想はついていますから。」

僕は、初めて人間が本気で「覚悟」という言葉を使った瞬間を目の当たりにした。

「・・・わかりました。ではあえて隠さずに申します。あなたは『骨髄異形成症候群』の可能性があります。白血病ではありませんが極めてそれに近い病状です。ただ、私がこうして包み隠さずお話しするのは、治せる希望があるから、そしてあなたがそれに向き合う事が出来る方と信じたからです」というような事を言っていました(治療の過程で病名は「骨髄性白血病」であったことが後日判明)。

横で聞いていた僕は頭が真っ白になっていましたが、母は先生のほうをじっと見据えて「じゃ、タバコも止めなきゃね(笑)」とおどけてみせていました。ただ、目は笑ってなかったのは覚えてます。

よりによってこの映画の公開はそんな時期だったんです。
まさか母がこんな病名だなんて思いもしなくて、病院についていく数日前に妻と鑑賞していたんですね。

当然、この映画の話はご法度。
病院ではDVDの持ち込みも出来たので母が大好きなアメリカドラマを片っ端から借りて病院に届けていました(病院の隣の商業施設にTUTAYAがあるという奇跡)。
母は抗がん剤治療を併用して行うため無菌室に入院。うまく行けば3ヶ月くらいで退院できますと先生からの説明もあり、「桜の季節は間に合わないけど、よさこいソーラン祭には間に合うかもね」なんて・・・。

そんな何気ない会話の中でふと映画の話になって、母から「セカチューって知ってる?」と聞かれました。二人して(ドキッ!)として顔を見合わせたのを覚えてます。
果たして、母がこの映画の内容まで知っていて話をしたのか、単に僕が映画好きだから話を合わせようと話題をふったのかは今となっては定かではありませんが、「・・う、うん。」なんて誰でもわかるような変なリアクションをとってしまいました。

内容について深くは話しませんでしたが、「退院したら観に行こうよ」と言ったような気がします。退院できるくらい元気になっていれば観れるだろうと・・・。

でも、結局母は退院することなく亡くなりました。

僕自身医療関係の仕事をしているということもあって、病状や治療におけるディティールに気になる表現があったにせよ、「運命に抗うことが出来ない無力さ」が痛いほど伝わってきて、どうしても「あの時」と重なってしまうのです。だからそれ以来観ていません。
DVDまで買ったのにね・・・。

「いつか、もう一度ちゃんと観よう」と思いながら、どうしても観ることが出来ずにいますが、昨年、母の13回忌法要も済ませ心の中もひと段落しましたし、もう観れるかなと思います。

家族の思い出の形って人それぞれだと思います。僕の場合は偶然この映画が母を思い出すきっかけになっているというだけで・・・。

でも不思議と療養中の母だけを思い出すのではなく、子供の頃に一緒に運動会で走ったこととか、カレーにセロリ入れられて大喧嘩したこととか、結婚式のスピーチのこととか・・・。
入院中にたっぷり時間があったから色んな話が出来て、沢山の思い出が蘇ってきて、実はそれは楽しい思い出でもあって・・・。

そういう事を忘れないアイテムとしてこの映画は僕にとって特別な意味を持っています。
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