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パルプ・フィクションのtakのレビュー・感想・評価

パルプ・フィクション(1994年製作の映画)
4.1
1994年に映画ファンたちを最も騒がせた監督は、クェンティン・タランティーノに違いない。なにせ、重厚な人間ドラマや芸術点高めの作品が強かったはずのカンヌ映画祭を、彼の血みどろの犯罪映画が征してしまったのだ。しかも、その作品は小難しい評論家だけでなく、日頃カンヌ受賞作に見向きもしない偏った嗜好の映画ファンの心をも揺るがした。その作品が「パルプ・フィクション」だった。

僕にとっての初タランティーノ映画はこれだった。世間が騒いでるけど、地元ではメジャー系の映画館では上映してない。なにせカンヌ受賞作だもんね、と地元のミニシアターに出かけた。あれこれ映画を観てくると、既視感はつきものだ。でも「パルプ・フィクション」は記憶にあるどんな映画にも似たものが思いつかなかった。

今にして思えば、映画ヲタクのタランティーノだから、オマージュや引用はたくさんあった。ブルース・ウィリスが日本刀を使うアクションシーン、脚本には"高倉健のように"と書かれていたとか、サミュエル・L・ジャクソンの決め台詞も千葉真一の映画が元ネタ?とも聞いた。それらはあくまでも監督の個人的なオマージュであり、映画全体として作風を真似している訳ではない。ハラハラしながらも、気の利いた台詞やディティール(ハリウッドスターの名前が並ぶレストランのメニューとか)にニヤリとし、ドン引きする程血まみれになって、ハーベイ・カイテルの掃除屋登場、あのディスコ映画スタアのトラボルタが変なダンス踊るのに大笑いして。なんだこれ。こんな映画、今までにあっただろうか。

人の死をこんなに笑い飛ばしていいのか?と、当時の保守的な僕は感想メモに書いている。その94年に僕が年間ベストに選んだのは「シンドラーのリスト」だもの。「車を売ればあと何人か救えた」という映画と、血まみれの車をお掃除してゲラゲラ笑う映画。まさに対局だ。その一方で、「パルプ・フィクション」の、わかる人にはわかる小ネタの数々にニヤリとさせられたのが楽しくて。このディティールに反応できた自分、映画を観続けてきてよかった…とさえ思った。とにかくすげえけど、どう表現していいのかわからなかった。結局、この映画の魅力に抗えなかった。そして僕は、94年のベストテンに「パルプ・フィクション」をきちんと挙げ、"バイオレンス嫌いのタランティーノ好き"となった。そして2003年の年間ベストワンに「キル・ビルvol.1」を選ぶ輩になっていくのだ(汗)。
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